ぼのかりぐらし

□ろんより(11/26修正、軌道変更)
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 熱がぶり返してもいけないと言われ、僕はスナドリネコさんの家にその日泊まらせてもらうことにした。
 僕が再び寝ている間にいろいろな人が来ていたらしい、僕が何とも言えない臭いに目を覚ましたときには、あたりはもうすっかり真っ暗で、スナドリネコさんは(相変わらず無表情だけど)少し疲れた顔をしていた。

「まだ寝ていていいぞ」

 スナドリネコさんは優しくいう。ぼのぼのはもう帰ったみたいだ。

「寝過ぎて眠れないよ。」

 喉の調子もすっかり良くなった。声が出せるのって素晴らしい。

「そうだな、顔色も良くなった。もう起きても大丈夫だろう。」

 僕は上半身を持ち上げる。節々が痛むのは三日間ずっと寝続けていたせいだろう。外を見ると真っ直ぐに伸びた見晴らしいのいい一本道、その両脇には只管不規則に木々が生い茂る。
 澄んだ空気は自分が今まで生きていた世界とは違うことを無言で物語っていた。

「ここはどこなの?」


僕が尋ねると、ひょうひょうとした顔でスナドリネコさんが答える。

「オレの家さ」

わかっていてこう返答している。僕はしばらく無言でスナドリネコさんを睨みつけたが、あきらめた。どうせ答えを聞いたところで、ここがどこなのか分からないことには変わりない。

「オレも質問していいか?」

「うん。」

 恩人の要望には出来る限りこたえたい。僕は身を乗り出し質問をまった。

「お前はどこから来たんだ?」

「・・・・あ。」

「なぜ川を流されていたんだ?」

「・・・えーと、」

「どうしてこの森にやって来たんだ?」

「・・・。」

 声が出なかった。立て続けに質問されて驚いたわけではない。どの質問にも答えられなかったのだ。記憶はあるのだけれども、どれも不鮮明で、大切なところがあやふやだ。
 名前、お家、家族、友だち、
 大切な物が確かにあったはず何のに、なんで忘れてしまったんだろう。

「答えられないなら答えなくてもいい。」

 じゃあなんで聞くんだよ!
 答えられな過ぎて悩みかけていた僕は、肩すかしをくらい、盛大にしかめつらをした。
 
「予行練習だよ。」

「・・・?」

 何をいっているのかわからない。スナドリネコさんはそれ以上喋るのも億劫そうで、ゴロンと横になった。どうやらこれ以上詳しく説明してくれる気は無いらしい。
 他にも聞きたいことはいろいろあったけど、すぐに寝息を立て始めたスナドリネコさんをわざわざ起こすのも気が引けた。もしかしたら看病疲れもあるかもしれない。三日も熱出したって言ってたしな…

 僕は仕方なく立ちあがった。今胸に秘めている疑問のなかで、自力で解決できるものがいくつかあったからだ。
 その一つが、目が覚めた時から気になっていた、この澄んだ空気のなか良く目立つ、良いとはいえない臭いの正体。
 臭いの強さてきにも、発生源はすぐそこのはずだ。
 立ち上がり鼻に神経を集中させて臭いを追う、すると発生源はすぐに見つかった。

「・・・・・あ」

あった。

「・・・・・うえぇ」

 臭いの正体はう○こだった。
だれだよ人の家の前でう○こするのは!

「オレじゃないぞ…」

「聞いてませんよ…。」

 僕の心を読んだのはもちろんスナドリネコ氏だ。先程の寝息はタヌキ寝入りだったのか、それとも僕が立ちあがったときに起きてしまったのか、詳しいことは分からない。
 何にしたってこんなものがあっちゃ眠れない。僕は二本の木の枝を使い器用にう○こを遠ざけることにした。



「・・・ふう」

 あろうことか、う○こは一つじゃなく何個もあったので、何往復もする羽目になった。全て片づけた時には僕はすっかり疲れていた。病み上がりでう○こを片づけるのってどうなのコレ・・・

 でも正直いい運動になった。さっきまで寝ずぎて眠れなかったから、これなら朝日が昇るまでぐっすり眠れそうだ。

 ほら穴に戻ると、スナドリネコさんがいびきをかいていた。僕は邪魔にならないよう入口の隅の方に寝転がる。
 意識がまどろみに落ちる寸前、僕の体が誰かに引き寄せられた気がした。起きようとしたのだけれども瞼が重くて持ち上がらない。とおくでスナドリネコさんが「おつかれさま」といったような気もした。やっぱりタヌキ寝入りだったんじゃないか、そう思ったけど持ち上がらない瞼を前に確かめる術はなかった。
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