オリジナル小説

□メモリー
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「おかあさーん」
そう言って歩く私。なんだ、私も、たーくんとなんら変らない。
そう思うと、なんだか悔しくて、私はそれ以上は何も言わず、泣かず、ただ黙々と歩いた。
ふと、焼き芋の香りがした。
今日は、男の子にいじわるでお昼を取られてしまったので、お腹が空いていた。

ねだったらくれるかもしれない。はしたなくそう思って、公園に顔を出すと、何か背中が寂しそうなおじさんが、焼き芋をくるくると回し、落ち葉から噴出す火の粉を巻きつけているではないか。

「おじいさん? それ、やきいも?」

私がそう呼びかけると、おじさんははじかれたように顔をあげた。そして、しばらく驚いたあと、穏やかな目をする。

「そうだよ。焼き芋さ。一人じゃ食べ切れなくてね。こっちきて
一緒に食べよう」

今考えたら、怪しさマックスだが、私はその頃は何故か全く怪しさを感じなくて。
ぽてぽてと近寄り、おじさんの前に腰をおろした。
親から知らない人とは、手を伸ばしたら届く範囲に居ないこと。といわれたが、このおじさんの手がどこまで伸びるかなんて分からなかったから適当な距離をとった。

「なんで、一人じゃたべきれないのに、こんなに焼いてたの」
「なんでだろうね、ふしぎだね」
「あたまおかしーの」
「直球だね、いいよ、そういうの」

文句を言ったのに褒められた。

「へんなのー」
私はほんとうに面白くて、そういって、へにゃりと笑った。
おじさんも、なんだかとても嬉しそうだった。
それから、談笑し、焼き芋の味にも飽きてくると、ちらほら公園内に人が見え始めた。
人 人 人。
この頃はまだこの公園も賑わっていたのだ。
すると、おじさんは、何かを思案した後、周りに見せつけるように私の頭を撫でた。

ゆっくりと。

「どーしたのー?」
「いや、なんでもないよ。いつでも焼き芋をあげよう。
おじさんの作るのは、甘くて美味しいから。いつでもおいで

此処にいるから」

そう言って去っていくおじさん。元気に手を振る私。


そんな私達をみて
周りの目は不審に満ちていた。
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