The world that was tied up
□標本
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私は今、授業というものを受けている。
何だか面白くて先生の言葉に一生懸命耳を傾ける。
今習っているのはシェイクスピアの十二夜。
あまり本は呼んだことが無かったが中々面白くて、つい夢中になる。
公安局
ある監視官が一つの事件について情報収集を行っていた。
「佐々山執行官?あぁ、そりゃ忘れる訳無いわ、標本事件は」
「標本事件?」
モニターの光が輝く部屋に女が3人。
金髪の女性はネイルを塗りながら、ポニーテールの女性は目の前のカップラーメンを待ちながら、ショートの女性は立ちながら話している。
「あたしらや現場じゃそう呼んでたんだけどね、朱ちゃんプライスティネーションってわかる?」
金髪の女性が問うと、立っている女性がたんたんと答える。
「生体標本の作成方法、でしたよね?」
「そう。死体に樹脂を浸透させて保存可能な標本にする技術。あれを活用した猟奇殺人だったのよ」
そう言うと、素早い手つきでモニターにある画像を映し出す。
「うぅっ」
その画像のおぞましさに監視官が口を抑える。
「バラバラに切り開いた遺体をプラスティネーションで標本にして、そいつを街のど真ん中に飾り付けてくれたわけよ…盛り場を飾るホログラムイルミネーションの裏側にね」
その説明に対して監視官は目を見開く。
「酷い…」
「何千人という通行人が環境ホロを眺めているつもりで、実はその下に隠れてるバラバラ死体とご対面してたっていう」
終始黙っていた執行官が待ってましたと言わんばかりにカップラーメンに手を伸ばす。
「バレた時のエリアストレスは4レベルも跳ね上がってねぇ」
そこで監視官がふとカップラーメンを食べ始めた執行官に気が付く。
「あ、あの、食事中にすみません」
しかし麺をすする執行官の顔はけろっとしている。
「ん?何が?」
何を謝っているのか分からないという顔で麺をすすり続ける。
「弥生はこの程度じゃ燃えないわ。もっと激しくて情熱的なのがお好みよ」
口に手を添えて言った唐之杜は酷く艶めかしかった。
「ええと…?」
返答に困る執行官に六合塚が助け舟を出す。
「今は標本事件の話でしょ?続きは?」
「まぁ、明らかに専門家の仕業だからねぇ、捜査の焦点も薬学、科学のエキスパートに絞り込まれていったんだけど」
そこまで言うと少し思い詰めたような表情に変わる。
「その途中で、佐々山君がね…結局全然別件で捜索願いの出てた高校教師のアパートからプラスティネーションの樹脂が見つかってね」
また先程のように慣れた手つきで画像を映し出す。
そのモニターには1人の若い男の画像。
「あ、ほらこいつ。
藤間 幸三郎、こいつが失踪した途端に犯行も止まったし、まぁ間違いなく黒だったはずなんだけど。状況証拠だけだしねぇ。まぁ実際のところは迷宮入り。それに、藤間には科学の素養なんて無かったから問題の樹脂を誰が調合したのか、それさえも謎のまま」
「共犯者だってことですか?」
「そもそも用途を承知の上で樹脂を作ったのかどうか、それすらも分からないんじゃ共犯と呼んでいいのやら。入手経路も謎のままだし…でもね」
次にモニターに現れたのは、少し画質は悪いが先程の若い男と1人の少女。
「これは?」
「藤間の傍には、この女の子が居たのよ。標本にされていないのを考えると、特別な存在だったようね」
「じゃあその子を探せば…」
「この子に関してあるものはこのぼやけた画像だけ…探し出すのは困難よ。…今となっては神のみぞ知る…よね」
部屋には麺をすする音だけが残った。
授業が終わって待ちに待ったお昼休み。
美術室へ行くと、既に昼食を用意していたマキシマさんが本を片手に座っていた。
「学校はどう?」
「楽しいです!初めての事がいっぱいで!」
少し興奮気味に席につく。
彼もどことなく嬉しそうで、私の気分はより一層良いものになった。
今日はマキシマさんともう1人、璃華子ちゃんと美術室に居る。
今回マキシマさんがお手伝いしているのはこの女の子。
マキシマさんは興味を持っているらしいけど、私はどうも好きになれそうにない。
彼女はとてつもなく不気味なのだ。
「辱めを受けた命から解放されて…ラビニアは幸せだったと思うかい?」
「娘が辱めを受けた後も生き永らえ、その姿を晒して悲しみを日々新たにさせてはなるまい、でしたっけ、マキシマ先生?」
会話している途中は、口を挟まずにマキシマさんの隣で彼女の描く絵を見詰める。
「美しい花も、いずれは枯れて散る。それが命あるもの全て宿命だ。ならいっそ、咲き誇る姿のままに時を止めてしまいたいと思うのは無理もない話だね」
私を立ち上がらせて肩に手を置き、絵の前に座る彼女に近付く。
「だがしかし、もし君が彼女を実の娘の様に愛していたというのなら、君はあの子の為に流した涙で盲目になってしまうのかな?」
「あら、それは困りますわ…だって私、これからももっともっと新しい絵を仕上げていかなくてはならないんですもの」
彼女の笑顔も、やはり不気味としか感じられなかった。
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