osomatsu
□不安の代わりに
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本当はずっと嫌だった。私と居る時の楽しそうな顔を他の子にも向けてるの。トド松君は凄く社交的で、私と初めて会った時も直ぐに仲良くなって恋愛感情が生まれるのにそう時間は掛からなかった。
「わ、私・・・トド松君の事が好きです!」
「・・・・・実は僕も、両想いだね」
それからデートとかしたり、いっぱい二人で楽しい事をした。でも変わらない事が一つだけ。トド松君の女友達は増える一方だった。最初はちゃんと友達だって分かっていたけど、段々募っていく不安。こんなの重いかもしれないと思って相談出来ず、苦しかった。だから、もう耐えられなくなった私は、彼に別れを告げに来た。
ガラッ
「あ、名無しさん、上がって上がって」
「お、お邪魔します・・」
緊張している私とは違ってトド松君は明るく私を出迎えてくれる。こんな声を聞くのも、こんな笑顔を見るのもこれが最後なのだと思うと心が痛い。
「にしても名無しさんが家に来るの久しぶりかな?今日は兄さん達も皆出掛けて・・・」
「あのね、聞いて欲しい事があるんだ」
「ん?なぁに?」
「・・・・・・もう、別れよう」
「・・何で?」
「トド松君には・・・私何かより良い人沢山居るでしょ・・・・?」
「・・・・・」
ボロボロと涙を零す私を余所にトド松は携帯を弄り始める。こんな状況でも他の女の子達と連絡を取っているのだろうか。それとも寧ろこんな状況だからこそなのだろうか。それがまたショックで余計に涙が止まらなくなる。すると、俯いている私の目に携帯の画面が映される。
「えっ・・・?」
「御免、僕には名無しさん以外の人とか要らないから」
「こ、これ・・」
「女の子達の連絡先、今全部消した。納得いくまで見て構わないよ」
淡々と言い終えると私の前に携帯をぽいっと投げ出す。何が何だか分からなくて彼の顔と携帯を交互に見るが、本当に私以外の女の子達の連絡先は全て消したらしい。
「も、もういい・・・」
「そう?」
「で、でも・・・消して平気だったの・・?」
「名無しさんと別れなくて済むならあんなの平気だよ」
ふにゃっと何時もみたいなあざとい笑顔を向けながら此方に近付いてくる。でもその声だけは何時も通りじゃなかった。
「ね、だから別れる何てもう二度と言わないでね?・・・もし別れたら、僕死んじゃうかも」
「っ!」
耳元で低く囁かれ、ビクリと肩を揺らす。こんな彼の様子は見た事が無くて、ただ感じたのは恐怖。そんな私の耳にチュッとリップ音を立てて口付けし、顔を話したトド松君は凄く嬉しそうな顔をしていた。
「・・・名無しさんのそんな怯えた顔初めて見たけど・・・・・・すっごく可愛いね」
「や、やだ・・・ごめん、なさいっ・・」
「何で謝ってるの?あぁ、別れようとした事?怒って何か無いよ、だって・・・君がずっと僕の傍に居てくれるでしょ?」
後退る私と、ジリジリと距離を詰めてくる彼。私の背は直ぐ壁に当たり逃げ場を無くす。そんな私をこの上なく楽しそうに眺めていたトド松君は、優しい手つきで私を引き寄せ抱き締めた。
「普段の名無しさんも可愛いけど、今の顔が一番好き・・・愛してるよ・・・・・・ずっと傍に居てね」
「ひっ・・・」
トド松君の紡ぐ言葉の一つ一つが怖くて身を捩って何とか抜け出そうとするがびくともしない。怖くて逃げ出したい思いでいっぱいだった。
「ねぇ、さっきも言ったけど・・・・名無しさんが僕から逃げたら、死んじゃうよ?」
多分、本当にそうするんだと思った。それを聞いたら身体の力が抜けてしまって、思考回路から逃げる事何て消えてしまった。
「いい子・・・これから一生愛してあげるからね」
今迄の不安の代わりに、最大の愛を手に入れた。