osomatsu

□ひっつき虫
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仕事を終えてマンションの階段を上る。この階段を上れば家に着くと思うと自然と足早になる。
が、1番上まで上ると扉の前に座り込む影が一つ。



「…毎日よく来るね」
「おかえり」



素っ気なく私が言ったにも関わらず、嬉しそうに立ち上がって扉の横にずれる。その腕の中には野良猫。多分私が帰って来るまでこの猫と時間を潰して居たのだろう。
鍵を差し込んで戸を開けると当然といった様子で入って来る。まぁ毎日の事だから構わないのだが。



「これでその猫拭いて、野良でしょ?」
「ん」



ウェットティッシュを渡すと、一松は猫の手足を優しく拭く。拭き終わると猫は部屋の中をとてとてと歩いて匂いを嗅ぎ始める。私は鞄を部屋の隅に置き、疲れた体をソファに預ける。



「…今日もお疲れ」
「ニート良いなー」
「………」



皮肉を込めて言うと一松は何も言わずに隣に座る。怒らせてしまったかと心配して顔を覗き込めば、私の考えてる事が分かったのかマスクをずらして少しだけ口角を上げる。



「怒った?」
「怒った」
「…御免」
「……許さないって言ったら?」



今の一松は悪い顔。ゆっくり腕を広げると待っていたと言わんばかりに抱き着いてくる。そのまま彼は首筋に唇を寄せて触れるか触れないかくらいの距離で話す。



「…許す」
「元から怒って無かったくせに」
「また怒って欲しいわけ?」



ぺろぺろと私の首を舐める彼はまるで猫の様で。本物の猫は何処に行ったのかと部屋を見渡すと、クッションの上で毛繕いしている様子が見えた。私の視線が自分に向いていない事に苛ついたのか、顎を乱暴に掴まれ、顔ごと彼の方へ向けられる。



「……何見てんの」
「猫」
「…他見んな」
「はいはい」
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