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□雨恋
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木兎さんはいつも傘を忘れてくる。
前の日にどれほど「明日は雨ですからね、傘忘れないで下さいよ」って言っても次の日にはケロッと忘れてて

「ごめん、あかーし!傘忘れて来たから入れて!」
なんて言って、俺の傘に割り込んでくる。

エースの木兎さんに風邪引かれたら洒落にならないし、別に2人で一緒の傘を使うのが嫌という訳でもないから「次からは忘れないで下さいよ?」なんて言って木兎さんを入れる。

雨が降るたびにこのやり取りをしている訳だから、本当はこの人はただ傘を持ってくるのが面倒なだけだろう。とか。
『持って来なくてもあかーしが入れてくれるから大丈夫!』…とでも思ってるんだろうな…。
俺の事を頼ってくれるのは嬉しいけど、もし俺が休んでたりとかする時はどうするつもりなんだろ。

なんて思いつつも、いつもより近い距離に気分が良くなっているのも事実で。

「あれ、赤葦…なんか機嫌いい?」
「…気のせいですよ、普通です」

妙な所で鋭い木兎さんには、些細な感情の変化も読み取られてしまうから侮れない。
出来るだけ自然に取り繕って普段通りの俺を装う。

内心、傘の中に響く声が心を満たしてくれる事が、時折触れ合う体の温もりが嬉しいくて。
でもこの異常な速さの心拍が隣に聞こえていないか心配で仕方ないのに。
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