書物
□無理、絶対無理、あり得ない
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※注意※
オチない。
キャラ崩壊ありです。
捏造あり。
要素薄いですが、月山です。若干山口総受けです。
虫が出てきます。不快になる方もいるかもしれないので、大丈夫という方のみ進んでください。
ちなみに私、虫が大嫌いです。死ぬほど嫌いです。見たら叫びます。虫好きな方ごめんなさい…
「無理!入れない!」
日向は部室の扉に背を押し付け、冷や汗をかきながら首を横に大きく振った。
後ろから日向に続いて部室へ入ろうとしていた影山と月島は、不可解そうに眉間にシワを寄せて日向を見下ろす。
「何やってんだお前」
「早く入ってくれる?」
「ダメだ!中には奴が……!」
「「奴?」」
思わず声が揃い、影山と月島は睨み合う。しかし、それも一瞬。すぐに目線をそらした。
日向は俯き、鳥肌の立つ体を自分で抱きしめながら話し始める。
「あの汚い色でぐにぐにした体!長い脚でジャンプして一気に距離を縮めてくる……ああ‼︎思い出しただけでゾワゾワする!」
「バッタか何か?そんなのでビビるなんてバカじゃないの」
日向は勢いよく顔を上げ、月島の目をまっすぐ見つめた。その目は恐怖と憎悪と涙でいっぱいだ。
「カマドウマは世界で1番怖い虫なんだ!」
「カマ、ドウマ……」
さっきまで日向をバカにしていた月島は顔を引きつらせ、一歩後ろへと下がった。
影山はただ首を傾げる。
「もしかして影山知らないのか?」
あの恐ろしい生き物は日本全土に名前を轟かし、人々を恐怖の底へ陥れているのだとばかり思っていた日向は驚きを隠せなかった。
Gよりも不気味だと、日向は胸を張って言える。
きっと日向と同じ思いであろう月島が口を開いた。
「カマドウマは雑食性で、動物性でも植物性なんでも食べる。飼育してる人もいるみたいで、ご飯は専ら人が食べるものらしいよ。その上、食べ物がない場合共食いもよくある話しみたい」
「…………お前、カマドウマ好きなの?」
「変なこと言わないでよ」
やけに詳しい月島に呆気に取られた日向が問う。しかし月島は身震いをし、鳥肌が立った腕を手で強くこすりながら否定した。
「無理、絶対無理。あり得ない」
「俺も無理!」
月島と日向が何に怯えているのか分からない影山は、
「いいから早く着替えようぜ」
部室のドアを何の戸惑いもなく開けるという狂行にでた。すると部室から小さな物体が、影山の足元をすり抜け飛び出してくる。
「「うわぁああ!」」
それを見た日向と月島は叫びながら物体と距離を離す。
「影山のバカぁ!出てきたじゃん!」
「王様本っ当、なんなの⁉︎」
「良かったじゃねぇか、これで部室に入れんぞ」
とスタスタと先に部室に入ってしまう影山。
物体……カマドウマはゆっくりとした動きで二人に向き直る。
カマドウマが一度跳んだだけで日向たちにぶつかる距離だ。後ず去ろうという考えが過るが、下手に動けば向こうも跳んできそうで動けない。
「影山!お願い、どうにかしてぇ」
「ちょっと!掴まないでくれる⁉︎」
日向は月島にしがみつく。月島は言葉では言うものの、カマドウマから目を離せず引き離すこともできない。
「そんなの無視して入ってくればいいだろ」
影山は部室のドアを開け、そう言ったとき、
「日向とツッキー……?」
日直の仕事を終え部室にやってきた山口。その目の前に、抱き合っている(?)月島と日向がいた。
呆然と立ち尽くす山口は、
「もしかして……浮気?」
両手で口元を抑え、今にも泣きそうな表情になる。
「違っ!」
月島は弁解するために近づこうとするが、月島と山口の間にはカマドウマがいるために月島は一瞬戸惑ってしまう。
「俺、信じてたのに……酷いよツッキー!」
顔を覆って泣き出す山口に近づいたのは、月島の隙をついた影山だった。
「山口」
影山は山口の腰に腕を回す。
「え?」
「俺は泣かせたりしねぇから、俺にしろよ」
「影山……俺……」
「ねえ。その茶番、続ける気なの?」
怒気を含んだ月島の声で、山口は影山から離れる。
「あはは、影山が乗ってくれるからつい……ごめん、ツッキー」
冗談だったのかと、本気で山口を口説いていた影山は密かに落胆する。
「で、二人してどうしたの?」
そう聞いた山口に、日向は「それ!それ!」と自分から少し離れた斜め下を指差す。
「ああ、カマドウマ?」
ものすごい勢いで首を縦に振る日向。
それを見た山口はカマドウマの近くでしゃがむと、なんの戸惑いもなくそれを掴み、来た道を戻って行く。
少しして部室前に帰ってきた山口の手に、もうカマドウマはいなかった。
「まさか、日向まで虫がダメとは思わなかったなぁ」
あ、ちゃんと手は洗ってきたからね!と山口はカマドウマを掴んでいた手をヒラヒラと見せた。
「や、山口ぃいいいいいい!」
抱きついていた月島を突き飛ばし、日向は山口に飛びつく。
それを山口は驚きながらも上手く受け止めた。
「山口かっけぇ!好き!」
「ありがとう。役に立てて嬉しいよー」
日向は山口の胸辺りにグリグリと額を押し当てる。そんな日向の頭を山口は乱暴に撫でた。
「実は中学の初めは、俺も虫嫌いだったんだよね」
「ウソ、あんなしっかり掴んでたのに⁉︎」
「うん。もう見ただけで鳥肌立つし、思わず叫ぶくらい」
信じられないといった顔で山口を見た日向に山口は苦笑する。
「どんな魔法使ったんだ……」
「魔法って大袈裟だなぁ。ただツッキー虫苦手だから、俺が虫から守らなきゃって思って頑張っただけだよ」
「月島だけずるい!俺も守られたい‼︎」
守られたい守られたい!と騒ぐ日向の首根っこを掴んだ月島は、後ろに引っ張って山口から無理矢理離す。
「離れろチビ」
「は、はい……」
月島の聞いたことのない低い声は日向を大人しくさせるのに十分だった。
「日向も言ってくれれば虫退治するよ」
「山口……!」
「そうやって甘やかすから調子乗るんでしょ?」
「頼りにされるが嬉しくて」
安請け合いして、困らなきゃいいけど……
という月島の心配が杞憂に終わるわけもなく。
「山口!カトンボ!」
「蚊がいる!」
「なんかよく分からない小虫が……」
絶対日向が怖がりそうにない虫で山口を呼び出す。山口はその呼び出しにクラスまで律儀に向かう。
それが二週間ほど続いた頃。
山口が日向のところへほぼ毎日通うことにイライラし始めた月島が、
「山口〜‼︎カメムシがいる、2匹も!」
「…………日向、今どこにいるの?」
「え?家の俺の部屋」
「だろうね!今夜中の1時だもんね!」
ということがあったのだと山口から聞いて、日向の下痢ツボを押し続けたのは言うまでもない。