書物
□続・頭が痛いとき
1ページ/1ページ
今日も今日とて偏頭痛。
今日の原因は低気圧のせい。雨が降りそうな空模様と比例して、自分の顔も暗くなる。
他にも映画を観たあとだったり、長くパソコンを見ていたり……ちょっとしたことでも偏頭痛になった。特に寝不足のときの偏頭痛は最悪だ。薬なんて効きゃしない。
「山口、今日も頭痛いの?」
「縁下さん……どうして一年の教室に?」
俺は机に突っ伏しながら、縁下さんを見る。あ、目を動かすのも辛い。
「練習の日程表できたから渡しに来たんだ。月島は?」
「今日は日直で、先生の手伝いに駆り出されてます」
「そうか。じゃあ月島にも渡しといてくれる?」
「はい……」
俺が頭を上げようとすると、縁下さんは優しく俺の頭に手を置く。
「そのままで良いよ。ここ置いとく」
俺の頭の横。机の空いたスペースに紙を置く。そのまま帰ろうとする縁下さんの服の裾を、俺の手はいつの間にか掴んでいた。
「山口?」
なぜ掴んだのか、俺でも分からない。けれど、どうしてか縁下さんにまだいて欲しかった。
昼休みはあと40分あるからと言って、貴重な休み時間を削ってはいけないと頭では分かっている。
「月島が来るまでここに居ようかな」
俺の席のすぐ横にしゃがむ縁下さんは、俺の背中をさすってくれた。人が触れているだけで、頭の痛みはともかく、頭痛に伴う吐き気は緩和されていく。
「ありがとうございます……ごめんなさい」
背中をさすってくれること、帰らないでいてくれること。大事な時間を削ってしまうこと、手を煩わせてしまっていること。いろんな意味を込めてお礼と謝罪を口にする。
すると縁下さんはふんわりと微笑んだ。
「気にしなくていいから」
縁下さんは優しい……自分の用事もあるだろうに。
「そういえば、日向とすれ違ったんだけどさ」
相槌もまともに返せないのに、縁下さんは話をしてくれる。
「影山もいたんだけど、ってごめん、話さない方がいいか」
「落ち着くので……」
「え?」
「縁下さんの声、落ち着くので。話してくれると嬉しいです」
図々しいかなとは思ったけれど、声を聞きたかった。低めのトーンが心地よい。
縁下さんは本当にツッキーがくるまで側にいてくれたし、話もしてくれた。
「おー、月島」
「縁下さん」
「これ、練習の日程表」
「……ありがとうございます」
「それじゃあ」
ツッキーに日程表を渡すと、縁下さんは俺の頭を一回撫でて教室から出て行った。それをぼーっと見送っていると、
「山口、コレ」
俺の机の上に小さいペットボトルの水と、2錠の薬が置かれた。
「頭痛薬を谷地さんがくれた。ご飯食べたら飲みなよ」
「ありがとう、ツッキー」
後で谷地さんにもお礼しなきゃな。
そう思いながら、重い頭を上げて弁当を取り出す。食欲もあんまり湧かないけれど、ツッキーの無言の圧力で仕方なくご飯を胃の中に詰め込んだ。
それから薬を飲んで、居眠りしたら頭はスッキリしていた。
「完全復活だよ、ツッキー!」
「そう。早く着替えなよ」
「うん!」
頭が軽くなり、元気が出てきた俺は少しはしゃいでしまう。体調が良いって最高!
そのとき、部室のドアが開いた。
「縁下さん!」
「や、山口」
「昼休みのときはすみませんでした。薬飲んでだいぶ良くなったんです」
「そうか、良かった」
そう言って笑った縁下さんの顔が、少し赤いことに気がつく。
「あれ?縁下さん顔赤くありません?」
「え⁉︎そ、そそそんなことないと思うけど」
こんな挙動不審な動きをする縁下さん、見たことない……熱でもあるんじゃないだろうか。
「先行くから」
「あ、待ってツッキー!縁下さん、無理はしないでくださいね」
慌ててツッキーの後を追った。
すぐに追いついて横に並ぶ。
「ねえ、昼のとき縁下さんに何かあったの?」
「え?何もないと思うけど」
頭痛くて机にくっついてただけだし。
「ふーん」
昼休みにツッキーと会ったときの縁下さんも顔が赤かったことは、ツッキーがそれ以上言わなかったために俺が知ることはなかった。