書物

□バレンタイン2015
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私の通う女学園には特別な風習がある。

制服のネーム入りスカーフを交換するというものだ。交換したら二人は晴れて”姉妹”になる。
”姉妹”とは特別な相手、または恋人同士と同義語。
そして今日、バレンタインにはチョコとスカーフを一緒に渡すとうまく行くというジンクスがある。

私もそれに便乗しようかと思ったけどやめた。どうせ無視される。

「姫……」

誰かが呟いた声に周りは静かになり、皆廊下の端へ移動した。私もそれに倣う。
階段から食堂へ向かう廊下を、彼女たちが歩いてくる。姫と呼ばれた生徒会役員、全校生徒の憧れが。

真ん中を歩くのは三年生の副会長、菅原孝支先輩。生徒ならず先生からも信頼が厚く人当たりの良い人だ。
右は書記の影山飛雄。美人で運動全般的に得意な彼女はバレーに関しては天才。だが勉強に関してはバカ。
左は会計の月島蛍。文武両道で人の目を引く魅力がある。が、協調性にかけるのが玉に瑕。
ちなみに生徒会長は澤村大地先輩。生徒会で唯一王子と呼ばれている人である。

「か、影山だ」

日向は私の体の後ろから、顔だけを覗かせた。
想いを寄せる影山を前に、日向は顔を赤く染める。なんて可愛らしい反応だろう。
私も中学までならそんな風に見ていたかもしれない。私の憧れで親友だった、月島蛍その人を。
私と月島蛍は幼い頃から一緒にいて、中学卒業までは高校でも一緒って約束していた仲だった。
けれど、

「ツッキーの嘘つき」

「山口今なんか言った?」

何も言ってないよ。そう嘘をついた。素直な日向は私の言葉を信じてしまう。

「日向は影山さんにチョコ渡すの?」

「渡す!今日がチャンスなんだ」

「応援してる」

「ありがとう、山口!」

私は日向が羨ましい。日向の勇気が欲しいよ。


私は何もしないまま、2月14日は過ぎていった。







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