書物
□星
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!注意!
・捏造
・既刊ネタあり
・自己満
・山口独白
一等星は地上から一番輝いて見える星。
俺にとって強くてかっこいい、ヒーローのツッキーが一等星だった。
でも高校に入ったら、同じ一年も先輩たちもみんなすごくて……日向なんて名前の通り太陽みたいなやつで、眩しくてすごくて。初めて憧れと一緒に、劣等感というものを味わった気がする。
そして改めて思い知った。俺は六等星。一等星と比べて輝きが百倍も劣る星。
六等星からしたら一等星は遠い存在で絶対になり得ないものなのに、一年で俺だけレギュラーになれなかったあの日。一等星に近づきたい、肩を並べたいと思った。
仲良く楽しく誰でも平等に試合にでれた中学とは違う。試合を見るたび”試合に出たい”って思いがどんどん器に注がれ溢れ出していた。
俺も戦えるって証明できるものがほしい。俺は恵まれた身体能力なんて何1つない。なら努力しなければ。みんなと同じ舞台に立つために。
だから思い上がりと言われるかもしれないけど、フローターサーブと出会ったのは運命だと思った。
嶋田さんに教えてもらって、練習して練習して練習した。フローターサーブが上手くできたときは嬉しくて、本番でも成功させるんだってずっとイメージして……
けれど、青城戦で貰った初めてのチャンスは失敗。ボールはネットの白いラインを超えることなく、地面に虚しく落ちた。
二度目のチャンスは和久南戦。一度目のネットインで青城戦がフラッシュバックし、失敗が怖くて逃げた。
情けなくて、どうしようもない。
どうして俺はこんな根性なしなんだろう。昔と全然変わらない、六等星のままだ。
なのに……
「山口‼!」
失敗した俺に澤村さんは、
「次、決めろよ」
”次”をくれた。
「わ、わかってます」
逃げた俺に縁下さんは、
「多分、自分で一番わかってます」
ギリギリで保っていた俺のプライドを守ってくれた。
今、烏養さんにこんなことが言えるのは、みんなが支えてくれたからだ。
「俺にもう一回チャンスを下さい」
俺も戦えるって証明をするんだ。
信じて背中を押してくれた仲間や、応援してくれる人たちの気持ちに答えるんだ。
高く上げたボールの中心に、手のひら全体を使って打つよう意識する。
イメージしていた通りの感触が手から肘へ。肘から肩へ伝わる。
その瞬間は周りの応援の声も、ボールを打った音も何も聞こえない。
不安も戸惑いも緊張もなかった。ただスローに見えるボールを目が無心で追っていた。
静かだったコート。
「アウト‼!」
そう叫んだ七番の横。
回転の無かったボールは起動を変え、白線の内側に落ちた。
無心だった心になんとも言えない、日向の言葉を借りればグワッと何かがこみ上げてくる。
それと同時に歓喜の叫びが会場全体を包む。
証明した。
俺は戦えると。
みんなが喜んでくれた中、
「そんなに驚く事じゃないデショ」
君はいつもの冷静な声で言う。
「この5ヶ月、サーブだけは誰より練習したんだから」
ツッキーは……一番憧れていた星は、輝こうともがいていた俺を誰よりも見ていてくれていた。
あいつらみたいに自分の体やボールを操りたいと願った。強い相手と対等に戦いたいと願った。
それが叶った今、ピンチ・サーバーとしての誇りが俺の中に芽生えた。
まだまだ一等星には遠いけれど、三等星くらいにはなれたと思う。
みんなのところまで、あと少し。
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