書物
□非現実と現実
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※注意※
山口が乙ゲーマー
ツッキーとは高校で出会います
月山♀
画面の中の彼は優しい。
自分を必要としてくれるし、好きと言ってくれる。
彼には触ることはできないし、世間話しをすることもできない。
でも、でもね。
幸せなの。この人に会えて、私は生きようって思えたから。
『今日はこれで終わり?また明日ね』
セーブすると、彼が笑って手を振ってくれた。私は惜しみながらも電源ボタンを押す。
暗くなった画面。
現実に引き戻された私はため息を吐く。
現実なんてくそくらえだ。
私の周りはイジメで出来上がってる。友達なんていないし、楽しいことなんて何もない。
明日、中学生活が終わる。
漫画やゲームなら高校から一転、もて女とかになってしまうんだろうけど……
私には無理だし、画面の彼”ホタル”がいれば全部どうでもいい。
私は布団から真っ暗な部屋へと足を踏み出した。
それは希望のない高校生活に飛び込むようだった。
高校の入学式。
退屈な式の後、クラスでのオリエンテーションで今日は帰れる。
早く帰りたい。早く帰ってホタルに会うの。
私は教室へと一歩踏み出す。なるべく人の目に触れないように、早歩きで。
一番後ろの端が私の席。の隣。
ベッドホンをつけた男子生徒が私の目を引いた。短い金髪に眼鏡の奥に見える涼しげな目、それは私が焦がれてやまない……
「ほ、ホタル⁉︎」
私は今までに出したことのない大きな声を出してしまった。騒がしかった教室は鎮まり、ホタルと呼んでしまった男子生徒はヘッドホンを外した。
私はどうしようかと、手をバタつかせ口は言葉を発さないのに動かしてしまう。
「けい」
「え?」
「僕の名前はホタルじゃないって言ってるの。間違わないでよね」
「は、はい」
彼は一つも表情を動かさずに、またヘッドホンをつけてしまう。
また騒がしくなり始める教室、私はホタルに似た人物がいたことに戸惑いながらも席に着く。
チラッと見えた彼の名前は”月島蛍”。
ホタルじゃなくてけい……
気づかないうちに月島くんを見てしまっていた私に、月島くんがまたヘッドホンをとって、
「何見てんの、止めてくれる?」
「ご、ごめんなさい」
不機嫌そうにしかめられた表情は私にはとても怖く見えた。まるで中学の頃、私をいじめてきた子達のようで。
ホタルに会いたい。
ホタルなら私に笑ってくれる。私に優しくしてくれる。
私の居場所はやっぱりホタルなんだ。
これが、私と彼との出会いだった。
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