書物

□1129の日
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あの、ツッキーの誕生日事件から二ヶ月ちょっと。
驚くくらい何もなく過ごしている。そりゃ、誕生日の日はトイレとかお風呂とか全部一緒だったけど、変なことはしてこなかったし次の日もずっと一緒にいるだけ……俺は拍子抜けしながらも胸を撫で下ろしていた。


しかし、事件は起きた。


ある日の土曜日。
午前練習のあとツッキーの家に行ったときのことだ。ここ二ヶ月で俺のツッキーへの警戒は0で、ツッキーがいつもより近くにいたこととか、服を捲られていることなんて全く気がつきもせず、ベッドに横たわり携帯を見ていた。

「いっ……たい!」

急に腹部に痛みが走り、思わず叫ぶ。視線を痛みのある方向に向ければ、

「なに、してるのツッキー……」

俺の腹を噛んでいるツッキーがいた。本気で噛んできたのは最初の一回だけで、あとは咀嚼するように何度も甘噛みしてくる。

「今日何の日か分かる?」

腹から口を離すと、何の脈絡もなく言ってきた。さっきまで噛まれていたところがスースーして寒い。

「分かんない」

「いい肉の日、だよ」

「意味わかんない。痛いからやめて」

「山口の肉はいい肉でしょう?中学の頃よりは引き締まっちゃったけど、柔らかくて好きなんだ」

どうしよう……ツッキーの目があの日と同じ目をしてる。

「山口はメールしてなよ。日向でも王様でもおっさんでも」

「おっさんじゃなくて嶋田さん!ていうか、相手は澤村さん。部活の連絡回ってきたの。ツッキーにもきてるはずだけど?」

「相手が誰でも、僕以外とメールしてるなら同じだよ」

「理不尽、わがまま」

「そんなの前から知ってるでしょ。……僕を甘やかしてよ、山口」

ツッキーは俺に覆いかぶさり、俺の首筋に顔を埋めた。首に息がかかってこそばゆい。

「本当、食べたいくらい」

その言葉の直後、首元に先ほどと似た痛み。

「いっ!」

ツッキーは満足気に笑ながら俺から離れ、

「高校卒業したらこんなんじゃ済まさないから」

「え?」

「なんでもない」

俺の腹を枕にして、ツッキーは目を閉じた。

「あ、血が出てる」

ツッキーが噛みついた場所を触り、その手を見れば微かに血がついていた。誕生日のときといい、狂気的なツッキーの行動は怖い。怖いけれど……

「離れない俺も俺か」

俺はツッキーの頭を撫でたあと、自分もゆっくり目を閉じた。




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