書物

□猫は恩返ししたい
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「俺、日向の家行くね」


山口が体の半分はある荷物を背負い、月島に小さめの声で行った。

「……なんで……」

しかも、休日のこんな朝早く……月島はそれが夢か現実かも分からない寝ぼけた頭で山口に聞く。というか、山口はいつ起きてそんな大荷物を揃えたのか。

「日向の家に行くんだよ」

ああ、そうだった。月島ははっきりしていく意識で、昨日話したことを思い出した。







日向の両親が夫婦水入らずで二泊三日の旅行に行くこと、妹は母方の実家に預けるということ。日向は部活があることもあり、学校が家より遠い祖父母の家に行かなかったこと……そのとき問題になったのが日向の生活力の無さだ。掃除、洗濯、料理などなど家事全般ができない。たった二泊三日、しかし日向にとってはされど二泊三日だった。部活後で汗を吸い取った洗濯物、部活前と部活後の空腹を埋めるご飯、その他もろもろの家事……日向には何もできない。
そこで山口の出番だった。月島の役に立ちたいと修行を重ねていた山口は全ての家事を出来ると言っても過言ではない。

「なんで山口が行かなきゃいけないの」

何もできない日向が悪い。それにご飯なら作り置きがあるだろうし、掃除なんて二、三日しなかったところでどうってことないだろう。洗濯は洗剤入れて適当にボタン押せばどうにかなる。

「日向にも恩返ししたいんだ。俺を拾ってくれて、ツッキーに会わせてくれたんだから」

そんなこと言われたら無理には止められない。

「山口は僕と離れても寂しくないんだ」

「寂しいよ……」

山口は月島の言葉に耳と尻尾を力なく垂らした。しかし、山口はそれ以上言わないところを見ると、日向の家に行くことは止めないらしい。

「……勝手にすれば」

布団に潜る月島に山口は何も言わなかった。








昨日のことを思い出し、目も冴えた月島は体を起こす。

「上着、着て行きなよ」

秋も終わりに近づき、上着がないと寒い日が続いている。今の山口の格好では少し寒い。

「ツッキーありがとう」

一旦荷物を下ろし、上着を羽織る山口。

「日向の家まで送る」

ベットから降りる月島を、山口は慌てて止めた。

「日向が迎えに来てくれるから大丈夫。せっかく午後練でゆっくりできるんだからツッキーは寝てて?」

月島の眉間にシワがよる。山口が昨日から日向、日向と言うのが気に入らない。

「そう……」

月島は布団の中へ戻る。
そんな月島の態度にいろいろ勘違いした山口は、

「ツッキーが寂しくないように、影山に頼んだからね!じゃあ、行ってきます」

その言葉を聞いた月島は、意味を聞くために勢い良く身体を起こした。しかしそこに山口はおらず、嫌な予感だけが静かな部屋に残った。



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