書物
□頭が痛いとき
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「山口おいでー」
日向が俺に向かって手を広げている。俺は痛い頭を右に傾げ、思わず「はい?」と聞き返してしまった。
少しでも頭を動かすと、ズキズキと脈打つのと同じようなリズムで痛む。日向の行動の意図を探るのも、言葉を発するのも億劫だ。
「抱きしめられると、頭の痛みが和らぐんだってさ!」
日向は部室の床に俺を引っ張り座らせた。その振動でまた頭に鈍い痛みが走り顔をしかめる。それと同時に、ぎゅっと日向に抱きしめられた。
「どうだ?」
どうだと言われても……あれ?
「…………結構、マシかも」
やっぱり痛みはあるけれど、確かに和らいだ気がする。俺は心地よくて日向に体を預けた。
「何してんだ日向……と山口?」
「影山!」
日向の声で誰が部室に入ってきたのかがわかった。頭を上げるのも嫌で、俺は日向に抱きしめられたまま。
「山口が頭痛いんだってさ。だから抱きしめて和らげてあげてる」
「ふーん……」
と、興味なさげに相槌を打った影山だったが、
「なんだよ影山!」
「この方が二倍和らぐだろ」
日向とは逆方向から抱きしめてきた。
……暑い。9月で少し涼しくなってきたとは言っても暑い。けど抗議するのも面倒だ……
「どうだ山口」
日向と同じことを聞いてくる影山。俺は「うん……」とだけ返す。影山は良いように解釈したらしく満足気な顔をし、さらにぎゅっと力を込めてきた。
もう俺はされるがままである。
「馬鹿が二人揃って何してんの」
「ツッキー……?」
次に入ってきたのはツッキーだった。ツッキーを見ようと二人の間から顔を覗かせる。
「山口?そんなとこで何してんの。馬鹿が移るよ」
ツッキーの言葉に影山と日向が怒っているが、その声が頭に響いて聞き取れなかった。
「もしかして偏頭痛?薬は?」
怒る二人を無視して、ツッキーが俺に聞く。
「ある……鞄の中」
そう言えば、ツッキーが俺の鞄から薬を見つけ出し、お茶と一緒に渡してくれた。
「ありがと、ツッキー」
「で?なんで山口に抱きついてたの。しかも僕の許可なく」
「なんでお前の許可が必要なんだよ」
あ、またケンカが始まる。
薬を飲み込んだ俺は、うるさいのは嫌だな……と思いながら三人を見守る。
「頭痛いときはぎゅーってされると痛みが和らぐからやってたんだよ!」
「何を根拠に言ってるのさ。ホント単細胞っていうか安直っていうか……」
「バカにしやがって!」
「馬鹿にしてるって分かったの?分からないと思ってた〜」
いつもは混ざって行くけれど、そんな元気ない。むしろ今は三人の声が大きくて離れたい。
「あ……」
縁下さんが部室に入ってきた。けれど三人は気がついていない。三人を見ていた縁下さんが俺に気がつくと、
「山口、顔青いけど大丈夫?」
と気遣っってくれた。
「ただの頭痛です。薬も飲んだし全然大丈夫です」
少し経てば薬も効いてくる。大丈夫、大丈夫。
「でも、今は痛いんだろ?だから、はい」
縁下さんが俺の手を握った。
「体育館まで俺が支えて行くよ」
あまりにも縁下さんがかっこ良くて、俺は素直に頷く。
手を握り返し、縁下さんの肩口に頭を押し付けて体育館へ向かった。歩きづらいけど、頭が支えられて楽だ……
体育館に着くまでの間体調とか気にしてくれた縁下さんの声は、低くて静かでなんだか安心した。
「縁下さんの側って落ち着きます」
「そ?じゃあ、ずっと側にいてあげようか」
いたずらっぽく笑う縁下さんに、俺は冗談と分かりながらも「ありがとうございます」と返す。
「冗談じゃないんだけどなぁ……」
「え?すみません、もう一度お願いします」
「なんでもないよ」
縁下さんは苦笑気味にそう答えた。
その後、部室にやって来た大地さんのカミナリが三人に落ちたのは言うまでもない。
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