書物

□猫は人になりたい
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月島は部活終わりに携帯を見て、目を見開いた。画面が母親からの着信で埋まっていたからだ。
メールもきている。

内容は山口が何処かに行ってしまったという内容だった。
月島は外に目線を向ける。
強風に吹かれた雨は部室の窓を叩く。さっきほど、天気が落ち着くまで帰宅はよそうと話していたばかりだというのに。

「月島、どこ行くんだよ?」

外に出ようとする月島を、日向が呼び止める。こんな時ばかり目ざとい、と悪態を吐きそうになるのを抑え、

「トイレだよ」

と答えた。

「嘘だろ」

「なんで……」

「気づいてないのか?顔青いぞ、お前。もしかして山口になにかあったのか?」

アホに分かるほど顔に出ていたのか……と月島は思いながらも、事情を説明する。

「俺も探す」

間髪いれずに日向が言った。

「なんか知らねーけど、俺も手伝うぜ!」

西谷が立ち上がり、次々に手伝いを買って出る先輩に「ありがとう、ございます……」と小さく呟いた。


−−−−−−−−−−−−−−−


山口は学校にいた。
道のりは数少ない外出者に片っ端から聞いたのだ。けれどもう人っ子一人いない。薄暗い敷地内で山口は月島を探した。
雨も強くなり、顔や靴がビショビショだ。

「ツッキー……」

家に帰ろうにも、学校の敷地内から出る方法も帰る道順もわからない。ふと、脳裏に過った、影山とダンボールに入れられ捨てられたときのこと。

このまま見つけることができなければ、もうツッキーとは会えないのかな……影山もいない、今度こそ一人きり。

「やだよぉづっぎぃぃぃ……」

やっとツッキーと話せるようになったのに。ツッキーと手を繋げるようになったのに。ツッキーと……

山口はその場にしゃがみ込み、月島に渡すはずの傘を目一杯抱きしめた。

「ヅッキぃ……ツッキぃ」

頬を伝う水が、もう涙なのか雨なのか分からない。それを拭うこともせずに月島の名を呼ぶ山口。

会いたいよ、ツッキー。

「山口!」

誰かに呼ばれ、顔を上げる。
ツッキーじゃない。でも見覚えがある……

「スガエル……さん?」

それは山口を人間にした灰色の髪を持つ青年だった。



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