書物
□猫は人になりたい
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もし俺が猫じゃなく人間なら、ツッキーの役に立てるのに……
そんな叶わない願いを俺はツッキーに拾われてから抱いていた。
「その願い、叶えてあげよう!」
そして何時ものごとく、ツッキーの枕元で「人間になれたら…」と考えていると俺の目の前に灰色の髪と左目に泣きぼくろを持つ、優しい笑顔が印象的な男性が現れた。
「誰?」
と言うかわりに、顔を彼に向けて鼻をヒクヒクと動かす。なんだかいい匂いがする。
「俺?俺は菅わ……じゃない!ええと、だ、大天使……す、スガエル、です」
恥ずかしそうに言うスガエルさん。
「目を閉じて。目が覚めたら君は人間だ」
優しく目を覆われ、俺は素直に目を閉じた。不思議な夢だなぁ……と、そのときはそんな風に思っていた。
月島は戸惑っている。
誰かに抱きつかれている感触で朝目を覚ませば、知らない子供が自分の胸元に顔を埋めていたのだ。しかも、なぜか全裸で猫の耳と尻尾をつけている。
あまりの衝撃に固まっていると、胸元の子供がもぞもぞと動き出した。そして月島を見るなり、
「ツッキー!」
と、嬉しそうに月島のことを呼んだ。
「だ、誰……」
「何言ってるのツッキー?山口だよ」
何を言ってるはこっちのセリフだ、と月島は思うと同時に、いつも側にいる猫がいないことに気がつく。
「ふざけたこと言わないでよ。山口は猫だ、人間じゃない」
「人、間……?」
月島の言葉に、子供は自分の体を慌てて確認し始めた。
「人間の手だ!足だ!」
きゃっきゃ騒ぐ子供。
「子供がどこから入ってきたの」
戸締りはいつもしっかりしているし、ここは二階で窓を開けていても子供が入れるところじゃない。
ふと、耳と尻尾を見る。まるで生えているかのようだ。特に尻尾。動き回っても取れないし、子供の気持ちに伴って動いている気がする。
無意識に月島の手が子供の尻尾に伸び、ぐいっと引っ張った。
「にっ!」
取れない……
月島はさらに尻尾を撫でてみたり、尾の付け根を弄ってたりと好き放題する。
「つ、ツッキー!や、くすぐったいよぉ……」
身じろぎする子供が顔を真っ赤にしているのを見て、月島は我に返った。ボサボサになった尾の毛をを子供は毛繕いし始める。月島は子供の耳や尾は、ちゃんとくっついていることを確認した。
「本当に……山口?」
「そうだよ、ツッキー!」
子供……山口が尻尾の毛繕いを一旦止め、月島に笑いかける。
なんだ、この非現実は……と頭を抱えていると携帯にLINE通知が届いた。
送り主はチームメイトの日向翔陽。内容は……
日向:か、影山が人なんで!
普通なら理解できない内容であるそれを、月島は理解しさらに頭が痛くなった。恐らく日向の猫(影山)も人になったのだ。
なんなんだ……
「ツッキー、大丈夫?頭痛いの?」
頭を抑え、ベッドに座る月島を心配そうに見つめる山口。そして労わるように、背伸びをして月島の額を舐める。
月島は「ありがと……」とお礼を言いながら、日向に返信した。
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