書物
□猫は人になりたい
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「信じらんないけど、信じるしかないね」
月島はなるべく冷静な声で言った。それに日向は神妙な面持ちで頷く。
今、二人は月島宅のリビングにいる。月島が山口も人間になったことを日向に伝えると、すぐに日向が影山を連れてやってきた。
「山口!」
「影山⁉︎」
ドアを開けてすぐ、山口に影山が飛びつく。恐らく兄弟の二人(二頭?)は猫のときから仲が良い。”恐らく”というのは、二人が捨て猫だったからである。日向が捨てられていた二人を連れ帰ったのだ。
ちなみに名前の由来は、山口さん家と影山さん家の間に捨てられていたからである。
「本当に山口も人になってる……」
日向は空いた口が塞がらない。
そんな日向をリビングへ招き入れる。異常事態に誰もいなくて良かったと、月島は思った。
そして最初に戻るわけだ。
「二人は人間になりたくて」
二人は同時に頷いた。
「そしてスガエル?って奴に叶えて貰った、と」
またも二人は頷く。
「すげー!」
と日向は感動し、突拍子もないこの出来事を整理しきれない月島は頭を抱える。
「月島」
影山が月島の前に仁王立ちし、
「山口は俺が連れて行く」
「「は?」」
「何言ってるの、影山!」
月島と日向の重なった声と、山口の戸惑った声に影山はなおも強い口調で続ける。
「影山、二人は飼えないって言っただろ」
「俺が人間になりたかったのは、山口と一緒にいるためだ!飼えないなら出て行く」
日向の言葉にも聞く耳を持たない。
けれど、
「本当に山口が守れるの?君はまだ子供で、しかも人って言うには中途半端だよね」
月島が影山の耳を指差すと、慌てて耳を隠す影山は悔しそうに口を噤んだ。
「ま、山口がそうしたいなら僕は何も言わないけど」
月島がオドオドしてた山口に話を振る。ビクッと肩を揺らした山口だったが、しっかりと影山と向き合い、
「俺は……影山とは行けない」
「なんで!」
「俺が人間になりたかったのは、ツッキーの役に立ちたかったからなんだ」
ギュッと月島の足にしがみ付く。
「それに、俺はツッキーの側にいたい!」
そんな山口を抱き上げた月島。
勝ち誇ったように影山を見下ろす月島と、ぐぬぬっと悔しそうに睨む影山見て「月島、大人気ねぇ……」と日向は思う。
「ぜ、絶対山口を取り返してやるからな!覚えてろボゲェェェェ!」
「あ、影山⁉︎」
月島家から飛び出して行く影山を、日向が追って行った。嵐が過ぎ去ったかのような気分の月島は一つため息を吐く。
「ツッキーは迷惑だった?」
「は?」
「俺が人間になったの……」
縋るように月島の服を掴み、哀しそうに見つめる。
「……驚いたけど、まあ、悪くはないんじゃない」
山口の頭を撫でる月島。その手に山口は嬉しそうに自ら擦り寄った。
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