わーとり
□背伸び
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大きな溜め息が漏れる。
目の前にいた笹森は眉をハの字にして苦笑した。
「オレを呼んだってことはなに、諏訪さんのこと?」
笹森と向き合うようにしてラウンジに腰掛けたごんべさんは力なく頷く。
その目は今にも大粒の涙を流しそうだった。
普通ならば女子の涙を見たら動揺を見せたであろう笹森だが、相手はオーバーリアクション王と呼ばれているごんべさん。
笹森は全く動じることなく、日常茶飯事としてそれを受け止める。
「私ね、聞いちゃったんだ……諏訪さん、大人っぽい女の人が好きなんだって」
「……………………へえ」
笹森の声には抑揚がない。
諏訪さんがまた何かをやらかしたのだろうか。
それとも、ごんべさんがまた大袈裟に物事を捉えたのだろうか。
どちらにしろ面倒なカップルが知り合いにいるもんだ、と乾いた笑いが出た。
「何それ?諏訪さんが言ったの?」
「……うん、この前堤さんと話してるの聞いちゃったの」
堤さんは悪くない。
きっと、お互いの言い方捉え方が最悪の形で噛み合ったんだろう、と笹森は溜め息を吐いた。
この無駄な時間を脱却できしたいと思った笹森は適当にごんべさんの背中を押す。
「なら、いつもと違う姿でも見せてアピールしたらいいじゃん」
どうせ喧嘩になんてならずに惚気てくるくせに。
心の奥で軽く文句を言えば、ごんべさんは顔を輝かせてお礼もそこそこに飛び出していった。
* * *
「お待たせー!」
明るい声とともに駅から現れたのは、諏訪が見たことのない女だった。
何度か瞬きをして、ようやくそれが自らの彼女だと気付く。
「おま……え、ごんべさん?」
「うん、そうよっ!」
口調まで変わっている。
もはや別人としか思えない彼女の姿に混乱する。
しかしいつまでもそのままなわけには行かないので、とりあえずごんべさんの手を取り歩き出した。
「あっ、ま、待って」
何センチあるのか分からないような高いヒールを履いたごんべさんは今にも転びそうだ。
仕方なしにいつも以上に歩くペースを遅くする。
「ちゃんと歩けてねぇじゃねーか」
「いいの!私大人の女になる!のよ!」
「……ほーお」
まあ頑張れよーと覇気のない声で返し、本屋に行ったり映画を観た。
映画館のそばにあったカフェで休憩すると、ごんべさんは少しだけ険しい顔つきをしている。
「ん、ごんべさんどした?」
しかし、何かを隠すようにごんべさんは必死に両手を振っては何もないと言った。
諏訪には大体見当はついている。
テーブルの下を見れば、ごんべさんの足からは血が滲んでいた。
「んな高ェサンダル履くから靴擦れしてんじゃねーか。ほれ、絆創膏」
「うっ…………洸太郎の女子力高い」
「あぁ!?」
「ごめんなさい」
慌てて諏訪から絆創膏を受け取ったごんべさんは悔しそうに下唇を噛みながら足に絆創膏を貼る。
いつもよりも真っ赤な唇に、いつもよりも真っ赤な頬。
いつもよりも派手めな目元。
諏訪は大きく溜め息を吐いた。
「あのな、ごんべさんが何してェのか分かんねーけど、その顔やめろ」
諏訪はテーブルへと顔を上げたごんべさんの頬を両手で潰す。
唇を突き出す形になったごんべさんの顔はなんとも言えない間抜けさだ。
「変な顔。いつも通りでいいじゃねーか」
なんだかごんべさんが文句を言いたげに声を上げているが、聞き取ることはできない。
「お前がなんで無理なヒール履いて濃い化粧してんのか知らねーけど、似合ってねえ」
言葉を飾ることが出来ない諏訪は思ったことを真っ直ぐに伝えた。
すると、じわりとごんべさんの目尻から黒い涙が溢れる。
「だ、だって……洸太郎が、大人っぽい女が良いって」
涙を拭おうとした諏訪の手はぴたりと止まる。
これでもかというほどに諏訪は思考を巡らせ、一つの答えに辿り着く。
「あ、あれは……あー、その、堤と小説がドラマ化した時の女優の話してたんだよ」
「え………………!?」
自分の勘違いに気付いたごんべさんはチークで真っ赤にした頬よりも赤く染まる。
それを見た諏訪は苦笑いしてごんべさんへと手を伸ばし、涙を拭った。
「俺のためにこんなことしたのかよ。ほんとかわいー奴」
「っ……!」
張り詰めていた糸が弛んだように、ごんべさんの目からはぼろぼろと涙が零れ落ちていく。
「まあ、お前高校生だし?気にするとことかあんのかも知れねーけど、俺はそのままのごんべさんが好きだから胸張ってぺったんこの靴で歩いとけ」
にかりと諏訪がごんべさんへと笑いかけた。
ほぼほぼノープランで書きました。
諏訪さんにほっぺ潰されたかっただけなんですけど、
最終的に後半の諏訪さんすごく自分好みで書きながら死にました。電車の中で笑
週2〜3くらいのペースで更新頑張りたいです
2015.08.03 更新