わーとり

□前見て歩け
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かつ、かつ、と小気味いい音を立てて歩く。

デートなのももちろんだが、先日買ったばかりの靴が自然と足取りを軽くさせる。

いつものように大学の入り口で待っていれば、いくつもの歩く音に混じり走る音が聞こえる。

やっと来た。



「悪ぃごんべさん、待たせちまったか」

「ううん、今来たところ」



くるりと立ち上がり、彼氏である洸太郎を見上げる。

こちらを改めて見た洸太郎の動きが止まったので、少しだけ期待に胸を膨らませたが、さすがは洸太郎。



「よし、んじゃ行くか」



気付いてはくれない。

洸太郎はどちらかというとおしゃれには敏感ではない。

むしろ少しの変化に気付いたら感心する。

そこで、私は靴をアピールするように足取り軽く洸太郎の手を引いた。



「お、おい!そんな急いでどうしたんだよ。普通に歩きゃいいだろ」

「いーの!」



かつ、かつ、と一定のリズムを刻んで道を進む。

さすがに私の様子に気付いたのか、洸太郎はうーんと唸りだす。

どうしても気付いて欲しくて、私はちらちらと足元を見下ろす。

何回か足踏みもした。

そこで漸く合点がいったように洸太郎が口を開いた。



「お前それ新しい靴か?変にアピールしないで言えばいいだろ」

「洸太郎がいつ気付くかなーって思ったの!」



挑戦的な目で見上げれば、すぐに気付けなかったことが悔しいようで、自分の頭をがしがしと掻く。



「あー……その、なんだ、似合ってるぞ、ごんべさんに」

「…………えへへ」



こんなに洸太郎を真っ赤に出来るのは私だけだろう。

それが嬉しくて、さらに大きくステップを刻む。

ピカピカの靴が地面を跳ねる。

嬉しいことって連鎖するんだなあ、と思いながら足元の靴を見下ろした。



「っ……ごんべさん!危ねえ!」

「えっ…………!?」



突然腕を引かれて、何かに包み込まれる。

少し遅れてそれが洸太郎の胸板だと分かった。

何が起きてこんなことになったのか。

混乱して身動きが取れずにいると、頭上から大きな溜め息が漏れる。



「お前なあ……新しい靴で嬉しいのは分かるけどよ、さすがに下向いて歩くのはどうなんだよ」



呆れたような顔をした洸太郎は、乱暴に私の頭を撫でる。

どんなに鈍感でも、やっぱりこの優しさが嬉しい。

自然と目頭が熱くなる。



「ご、ごめ……なさ……」

「いつまでも靴見てねぇで少しは俺のこと見ろ!」



一応彼氏なんだぞ、なんて言いながら悪戯っぽく笑う。

そんな笑顔を見ていたら、目尻に滲んでいたはずの涙はすっかり乾いてしまった。

私は改めて洸太郎の手を引き、洸太郎を振り返る。



「ね、洸太郎。行こ?」

「おう!」



洸太郎の笑顔が何よりも眩しく見えた。



















なんか、諏訪さんに腕を引かれたかった。
それだけです。
今週は更新頑張れそうなんだけど、来週から難しそうです…

2015.07.28 更新

 

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