わーとり

□察してくれなきゃ
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「ねえ、なんで席譲ったのさ」



せっかく僕が譲ってあげたのに。

ぶうぶうと私に文句を言う菊地原くんは少しだけ頬を膨らませてこちらを見る。

かわいいな、なんて思っても口には出さない。

さらに文句を言われてしまう。



「ほら、だって妊婦さんがいたから譲ってあげないと!大変だろうしね」



ちらと元は菊地原くんが座っていた席を目で示せば、菊地原くんは文句を言うのをやめた。

その代わりにため息をひとつ吐く。

気まずいわけではない沈黙が続き、目的地である駅で電車を降りる。

改札を出てしばらく歩いていると、菊地原くんが眉間に小さく皺をつくってこちらを振り返った。



「音」



思っていたよりも短すぎる言葉に私が聞き返すと、菊地原くんはこちらの足元を指差す。



「ごんべさん、靴擦れしてるんでしょ。足音が不規則すぎ」



聞いてて不愉快なんだけど、と吐き捨てるようにいう。

自分なりに気を付けていたのだが、バレていたのだ。

先程たまたま電車が一緒になっただけなのに、察しのいい菊地原くんのことだ。

席を譲ってくれた時点で既に気付いていたのだろう。

弁解の余地もなく、私はとりあえず笑ってごまかす。



「……あは、バレてた?」



そんな私の態度が菊地原くんとしては気に入らなかったのか、黙って私の手を引く。

慌てて菊地原くんに着いて行くも、疲れない程度の速さだった。

少しだけ進んだ先のベンチに無理やり私を座らせ、菊地原くんはこちらを見下ろす。

電灯の当たり方もあってか菊地原くんの表情は伺えず、今度は何を言われるのかと私は体を縮こまらせた。



「ぼく絆創膏とか持ってないけど……」



そう言いながら目の前にしゃがみ、私の左足を少しだけ持ち上げ、僅かに流れている血をぺろりとひとつ舐める。

菊地原くんによる予想外の行動に私は口をぱくぱくさせる。



「これで許してよね」



こちらを見上げる菊地原くんのあまりに真っ直ぐな視線に、私は反らすこともできずに顔に熱だけが集中していく。

心なしか左足もじんじんと熱を帯びていっているように感じる。

ふと気付いた時には菊地原くんはこちらに背中を向けてしゃがんでいる。

どうしたのだろうとしばらく見つめていると、口を尖らせた菊地原くんがこちらをまた振り返った。



「ちょっと、早く乗ってよ。ぼく忙しいんだからあんまり待たせないでよね」



菊地原くんの言っている意味が分からず、少しの間停止してしまう。



「え、え、それは、つまりどういう……」



私が問いかけを言い終える前に菊地原くんは鬱陶しそうに言葉を投げかける。



「送ってあげるって言ってんの。ごんべさんってば鈍すぎ」



菊地原くんの意図をようやく理解した私は、恥ずかしがってまた菊地原くんに文句を言われた。
























初めてのワートリ夢にして菊地原夢。
とっても好きです。かわいい。
菊地原のなかなかわかりづらい優しさがかわいくてたまらんとです。
彼氏に欲しいなあ…

2015.05.12 更新

 

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