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□爆撃会長!
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美しい男と形容される容姿にもしも典型があるのだとすれば、それは彼のような見目を言うのではないだろうか。

風紀委員長の八田明良は目の前に座る人物を見ながらそう思う。
見ると言ってもさりげなく、本人には気付かれない程度にだ。不躾な視線を与えるのは申し訳ないと感じるほどにかの青年は清廉に美しかった。

榛原東。青年の名はそういう。明良に並び立つ―否、実質的には生徒全てを統括するこの学園の生徒会執行部会長様である。


「―それで? 生徒会長さま」

ゆるりと口を開いた明良に対して彼は小さな微笑みを向けた。

「役職名で呼ぶなんてそっけないな。名前で呼んでくれると、とても嬉しいのだけれど」

「……、榛原クン」


少し残念そうな、計算の含まれない無防備な表情はそれでも、いや、それだからこそとてつもなく魅力的で、明良は心臓を散弾銃で撃ち抜かれたような感覚を味わった。
この近距離で散弾銃など打たれたら胸に大きな風穴が開くが。

これまでの人生、強面の男とばかり対峙してきたような明良は、目が抉れそうなその神々しさにそっと視線を外しながら彼の名を呼ばわった。
それでいい、と今度は嬉しそうに微笑んだ東はさっきの比ではなかったが、幸か不幸か明良がそれを見ることはなかった。


「そう、それで、俺は言いたいことがあって来たんだ。八田くん」
「言いたいこと」
「ああ。」
「そりゃなんだろう」
「うん、どうやら俺は八田くんのことが好きみたいなんだ」

今度東の口から飛び出したのはそんな言葉だった。
軽やかに、予期せぬ状況で投げ込まれた手榴弾による被害は爆破対象である明良を超えて、風紀室のあちこちからむせる音や物を落とす音が響き、先程まで二人の様子に固唾をのんでいた室内は一時騒然となった。

そんななか、明良は一人ぽかんと目の前の顔を見つめていた。明良の目はこれほどまでに美しいものに対する耐性がなかったので、にっこりと微笑みかけられるとすぐに逸らしてしまったが。

「―それは、その、どういう意味でなんだろうな、榛原クン」
「勿論、恋愛感情でだよ。そういうわけで、八田くん、俺と付き合ってくれないか?」
「……、いや」
「嫌?」

「あ、違います。嫌っていうか、その」

明良は自分がしどろもどろになっていることを自覚していた。委員長大丈夫かという白目を剥きそうな委員達の鬼気迫る表情もなんとも言えない。
明良とて白目を剥きそうな気分である。何が起こっているのだ、そうかこれが青天の霹靂とでもいうやつか。


どう応えたものかと視線を遠くに飛ばした明良の手に、そっと触れる東の指。
恐ろしく丁寧で控えめな触れ方だったが、明良は飛び上がらんばかりに肩を跳ねさせて驚いてしまった。

視線を元に戻せば、柳眉を下げて僅かに目を伏せ世にも切なげで麗しい表情を浮かべる東を直視することになる。


「俺に思慕を寄せられるのは、君にとって迷惑なことか?」

ふわりと影を落とす睫毛を持ち上げてやや上目気味に明良を見詰めた東の瞳は、透明の液体で潤みを帯びていた。
まるで自身が極悪人であることを自覚したかのような激烈な罪悪感に襲われる明良。

追い討ちをかけるように周囲は「会長……」「会長、可哀想」「委員長が会長泣かせた―」などとさわさわと非難の言葉を囁く。
断じて俺は悪くないと言えるような冷静さは、その時明良には備わっていなかった。「八田君……」と甘く切ない声で呼ばれ片手で顔を覆う。


「……あー、その、榛原クン?」
「なんだ、八田君」

「そうだな、そう、まずは、お友達からハジメマセンカ」


目を泳がせ、ちょっと片言になったその申し出に東はぱっと大輪の花が咲き乱れるかのように顔を輝かせた。

「それは俺が君を恋に落とす余地があるということだな!」

にっこりとそれはそれは美しく嬉しそうな笑顔。
直撃でそれを喰らった明良は今度こそ真っ赤になってソファーに沈み、「副会長の言った通りだ! 頑張る!」とウキウキしている東の声は耳に届かなかったのだった。



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