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□だから神様は特別を作った
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「さて―この粗大ごみはどうしてほしいんだい、和泉ちゃん」


無表情にちゃん付けをされた和泉は一瞬ぽかんとしてからちらりと崇興の背後に視線をやりすぐにそらした。

こちらに顔を向けて気絶している男の顔が鼻血で大惨事になっていたようだ。


「風紀に連絡するか」
「だ、だれにも、知られたくない」
「そうか」


きゅっと手を握り締めて告げられた要望。
この瞬間、崇興にとって大切なのは和泉の希望だけであったので、何の否も唱えることなく任せろという意味を込めて頷くと徐に立ち上がった。


そして一番手近にいた男の首根っこを掴んで軽々と持ち上げ、容赦のない平手打ちをその顔に食らわせた。
衝撃と痛みに意識が戻った彼は自分をがっしりと捕まえている恐ろしい男に悪夢再び、と悲鳴をあげた。

許してくれと訴える男に崇興はぐっと顔を近づける。


「二度と、俺と和泉の視界に入るな。お前ら全員だ、いいか。言う通りにしなかったらその時はどうなるかわかるな―?」


低い恫喝に何度も何度も首を縦に振るのを確認すれば、もう用はない。
崇興はぱっと手を放し、床に倒れこむ男には見向きもせず和泉のほうに戻った。


そうして所在なげな表情で見上げてくる彼をいとも軽々と抱き上げた。


「う、わ―!?」
「手当てに行こうなァ、和泉ちゃん」
「ほ、保健室は、」
「俺の部屋だから大丈夫さ」


ぽんぽんと着せてやったブレザー越しに背中をたたくと、腕の中の体からは強張りがとれた。
もう警戒されていないようだ。

その事実に気分がよくなった崇興の口角がうっそりと持ち上がったことを知る者は誰もいない。




***


さて、どうしてこんなことになっているのだろうか、と生徒会会計、小野和泉は考える。
考えながら髪と体を洗って仄かにバニラのような香りのするミルク色の湯に浸かり、用意されていたふんわり仕立てられた柔らかなタオルで全身を拭いた。


人気のない倉庫に引きずり込まれあわや強姦されるというところで和泉を助けてくれたのは学園で極悪非道、血も涙もないその他もろもろ悪名高き男、鬼島崇興であった。
対面したのも言葉を交わしたのも初めての彼が加害者の男たちを殴り蹴り投げ飛ばす様は確かに壮絶なものがあったが、和泉への扱いは戸惑うほどに優しく丁寧だ。

自分に危害を加える気は全くないのだと分かるその態度に和泉はすっかり安心してしまい、連れてこられるままに彼の部屋に来て、促されるままに風呂に入った。
舐められたり触られたりしたところを早く洗いたいだろうという崇興の優しい気遣いである。



結果、この状況は何も危険ではないどころかとても安全だ、と和泉は結論付けた。

出されていた着替えの服は、平均より高い方の和泉から見てもぶかぶかだったが、自前の服はもう着られない。



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