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□だから神様は特別を作った
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「―痛いところはないか、ちびっこ」
かける言葉を迷った末に吐き出されたのがこれだった。
表情筋をほとんど全く動かさずに発された問いに、青年は大いに戸惑ったようだがおずおずと頷きで答えてくれた。
「そうかそうか、そりゃあよかった」
「―…あ、の」
「うん?」
ポケットから取り出した紺色のハンカチで汚れた手を拭う崇興。青年は躊躇うように口をむずむずさせてから小さな声で「助けてくれてありがとうございます……」と言った。
周囲の男たちを殴り飛ばしたのは実際のところ助けるという目的からではなかったが、崇興は口に出してわざわざ否定をするということはしなかった。
代わりにすっかり綺麗になった手で、後ろ手に彼の腕を拘束していたネクタイを外してやり、目尻にたまった涙を拭って艶やかな黒髪を優しく撫でてやった。
彼は驚いた表情をしてからくしゃりと端麗な顔を歪ませて泣き始めた。押し殺した嗚咽と溢れ出る透明な涙は崇興の項の辺りをざわざわとさせた。
破壊衝動を刺激された時の血液が沸き立つようなざわめきとは似ているようで全く非なるもの。
体に釣り合う大きな手を青年の後頭部に回して肩に引き寄せる。ハンカチで拭ってやることが出来れば良いのだが、生憎先ほど血を拭いたことでそれは汚れてしまった。
選択ミスだなと崇興は思う。おずおずと崇興のシャツを掴んできた彼の手首には赤い擦過傷が出来てしまっている。
風呂に入れて手当てか。いや、その前に、こういう時は風紀に連絡を入れなければならないのだったか。
考えながらも崇興の両腕はこれ以上ないくらい優しく青年を甘やかしている。
「―……すみません、俺、泣いたりして……」
しばらくして涙が止まったのか、はあ、と息をついた彼はぐずぐずした声でそう謝った。
崇興は体を離して彼の小さな顔を覗き込む。涙の大部分は崇興のシャツに吸収されていたが、その鼻や目は赤く染まっていた。
ポケットティッシュを取り出し、彼に渡してやる。
「謝ることはねえよ」
「ありがとうございます……」
恥ずかしそうにティッシュを受け取って鼻を噛んだ彼に崇興は一度頷く。
「俺は鬼島崇興だ。ちびっこ、お前の名前は」
「小野和泉……。あの、俺、別に小さくないです―」
おのいずみ。
頭の中でその音の羅列を繰り返してから、不満げな和泉に「そうかい、悪かった」と返す。崇興から見れば彼は十分に小さいのだが、確かに平均身長は超えているのだろう。
自己紹介をしあって、ほんのすこし和んだ空気が流れたが依然として崇興の背後には強姦魔たちがノックアウトされているうえに和泉の服装は悲惨なものだ。
そのことに思い至った崇興は自身のブレザーを脱いで和泉の肩にかけてやるとスラックスを引き上げてベルトも締めてやった。
甲斐甲斐しくも素早い手つきに和泉は「自分でやります」というタイミングもつかめなかったようだ。
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