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□だから神様は特別を作った
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昼寝をしようと思って訪れた人気のない静かな倉庫。そこには先客がいた。
1人を取り囲んで服を剥いでいることから見て強姦の類であろう。

鬼島崇興にとってそんな現場を目撃したことは不愉快そのものであったし、更に言えば眠気に襲われ、機嫌のよくない時に、こちらを見た男たちが悲鳴をあげたのがいただけなかった。
崇興は自分を見て悲鳴をあげられるのが大層嫌いだ。その発生源を潰したい衝動に駆られる。昔から人よりも強かった崇興の嗜虐心を不愉快なほど刺激されるのだ。

普段のようにただ怯えられるだけなら抑え込むこともできたその感覚は、「強姦魔」という最低最悪の人間たちを前に甚く荒立てられてしまった。


そうして崇興は逃げようとする強姦未遂犯たちが全員床と仲良しになるまで暴れたのである。
結果、凶暴な嗜虐衝動は収まりをみせた。

肝心の眠気もすっかりと覚めてしまっている。

ふう、と一息ついて、崇興は漸く被害者と思われる青年に目を向けた。半分ほど引きずりおろされたスラックスと裂けたカッターシャツ、その隙間から覗く肌。
それらを順に辿っていき、少し吊り気味でたっぷりと水気を帯びながらも意志の強さを窺わせる目と目が合ったとき、崇興は唐突に思った。


ああ、この生き物を大切にすべきだ、と。


本当に唐突に。なんの前触れもなく。崇興自身、その思考に驚いたほどだ。
だが、崇興は思考のあと一瞬で溢れ出した感情が愛おしさや庇護欲であることを誰に言われるまでもなく理解していた。


感情の奔流に身を任せ、青年と視線を絡ませたままゆっくりと近づいていく。
日本人男性の平均身長を遥かに凌駕する体躯を持つ崇興は当然脚も長いが、その動作はとてもゆっくりとしている。
周囲はその緩慢な動作にある意味威圧感を覚えるのだが、それは本人には与り知らぬことである。


そして、被害者の青年は実のところこの学園において莫大な人気を誇る生徒会で会計の役職を持ち、容姿端麗、才色兼備おまけに人望もあるような人物であった。
とはいえ、彼の胆力は平均的な人間のそれとかわらない。どころか些か小心者の気があった。

つまるところ、崇興が周囲に与える威圧感は青年にもしっかりと作用していた。強張った表情は変わらぬまま、唇を震わせている青年に崇興は手を伸ばす。
しかし、びくりと震えた体と視界に入った己が手の赤い汚れに自然その動きは止まった。


そうか、怖いのか。と新発見をした子供のように何の邪気もなく思い至る。

崇興は青年を抱え上げるようとした先ほどまでの行動をひとまず取りやめ、視線の高さを合わせるようにしゃがみこんだ。混乱を滲ませた目を、じっと見返す。



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