short

□青色スピカ
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隆盛を極める太陽からの容赦ゼロの熱光線。点在する木々から届く蝉たちの大合唱が思考力を奪っていく。
直射日光に晒され続けた肌はすでにひりひりと痛みを放っていた。
黒くならないかわりに痛々しく真っ赤になってしまう体質は、陸上競技部に所属する冴木にとって厄介なものでしかない。


夏が終わっても白いままで女の子たちからはいいなーと本気の声音で言われるけれど、何がいいことがあるだろうか。
冴木はむっつりとしながらひりひりする頬に濡れたタオルを押し当てた。

こうやって冷やせばほんのすこしでも楽になる。部活が終了した後の身体に燻る熱も一緒に冷却する。


背を預けているのは立派な大木で、豊かな葉が日光を遮り涼やかな木陰を作り出している。
夏季休業期間に突入した大学構内は部活動やサークル活動をしている学生がいるだけで、授業期間に比べれば随分と閑散としている。

大学に隣接した立派な陸上競技場は、今日はサッカーの試合だかなんだかで使用ができなかった。

高校時代は、休日以外はいつもグラウンドやコンクリートを走っていたというのに、土のグラウンドでの練習に物足りなさを感じてしまう自分は、すっかり大学での練習に慣れ親しんでしまったようだ。
冴木はどことなくしんみりした気持ちで高校時代を思い返す。といっても浮かんでくるのはすべて部活での思い出だ。
皆元気かなあ、と仲の良かった友人たちを懐かしむ。


冴木は遠征や旅行以外で出たことのなかった関西圏を出て関東に位置するこの大学へとやってきた。

未だ標準語には馴染みきれていない。
訛りを笑われてから頑張って直そうとしているが、とっさに出てしまうのは方言だしこちらの言葉はなんだかきつく聞こえてしまう。


嫌いじゃないんだけれど、と冴木は苦笑する。
お盆は実家に帰ろう。そして友人たちに会って遊びまくろう。


「はあ……」

そう決意したところで、思考から意識がうかびあがったせいかやたらに暑さを感じた。辟易してつい吐き出した溜め息もどこか熱っぽい。
冴木は頭にタオルを被ってストレッチを始めた。ジャージをまくりあげているせいで覗く足首もふくらはぎも日焼けからは遠い白さだ。

開脚してぺたりと体を前に倒す。どこにも痛んだり引き攣ったりしないことを確認しながら丁寧に慎重に筋肉を伸ばす。
俯いた拍子に汗が顎の先から滴った。

ぐいっと手で拭い顔をあげたところで突然頬にひんやりしたものが押し当てられる。不意打ちに冴木は「わっ」と声を上げて体を震わせた。
濡れた頬を抑えながら慌てて振り向けば、斜め後ろに人が立っていた。こんな近くにいて気が付かなかったなんて、と呆れてしまう。


「赤間さん……」
「うわ、なに? その嫌そうな顔。可愛くねえな」

にやっと嫌味なくらい格好いい顔に意地悪そうな笑みを浮かべるその男は冴木の一つ上の先輩である赤間優だった。
姿を視認した途端反射のように冴木の眉間は寄せられる。可愛くないなどといいつつ気分を害したふうもなく赤間は隣に腰を下ろした。

さっきまで同じように汗だくで部活をしていたはずなのに、今の彼は涼し気な顔をして普段通りおしゃれな私服姿になっている。


「赤間さん、着替えるの早いすね」
「ていうか、お前が遅いんだよ。なんでまだジャージなの? はやく汗流せば? 暑苦しいから」
「うっぜえ……」

思わずぼそりと呟いてしまった。隣にいる彼には当然聞こえていて軽くにらまれたのでぱっと目を逸らす。

「柔軟してたんす」
「うん、見たから知ってる」


にべもない、とはこういうことを言うんだろうか。と冴木は考える。どうしていちいちこんなふうな返しをするのだろう、この人は。
関西人と関東人の違いというわけでもない。他の先輩たちは優しかったり面白かったりでこんな返しをされたことはない。

それは同学年も同じだ。



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