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□酒のせいにはさせない
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グレープフルーツ味が口の中を満たす。アルコール3%の酎ハイなんてジュースに等しい。けど俺は苦いビールより甘ったるいカクテルや酎ハイが好きだった。
隣に腰かけたクラはソーダでわった梅酒を飲んでいる。梅酒が好きなのは知ってるけどさっきからそればかりな気がする。


「クラ〜。俺、彼女と別れたわ」
「早くね?」

ふと思い出して今朝の出来事を報告する。クラは首をかしげてけだるそうに笑った。ホワイトアッシュの派手な短髪が揺れる。
シンプル好きなこいつの趣味とは違うその色味は、美容師なお兄さんの練習台にされているからだそうだ。


「思ったのと違うって」

もう聞きなれてしまった振られる理由。前はショックを受けたりもしたけれど今更なんの感慨もない。
自分が周りにどんな印象を抱かれているのかももう分かっている。

女遊びなんてしそうにもないように見えるクラを好きになるのは大人しめで一途な子たちだけど、俺のことを好きになってくれるのは派手で軽く楽しい付き合いがしたい子たち。
詰まる所、俺はチャラついた女好きに見えるらしい。


「お前実は女慣れしてないもんな」
「そういうこと言うなよー、図星だけどさー」

むっと唇を尖らせて隣にある肩に体重をのせて寄りかかってやる。

「へこんでんの、カグ」
「べっつにー」
「最初から、付き合わなければいいのに」
「だって、断るのも大変なんだよ」

たわいない理由じゃ納得してもらえないし。いわゆる肉食な女子に見た目のちゃらさからは想像もできないほどの草食系だと自称している俺が押し勝てるわけがなかろうよ。
付き合おうといってきてくれるのは自分に自信のありそうな可愛い子たちばかりだからまあいっかって思ってしまう。俺は好きだと言われると意識してしまう単純な人間だから付き合った子はみんな好きになれるほうだし。

今回の子は例外だけど。だって3日ですよ、3日。そんな短期間でどうやって好きになれと。


「ていうかみんな、別に俺のことが好きなわけじゃないんですよー。彼氏がほしいだけでさー」

それでなんで俺を選ぶのって話だけどー、とぼやいて残り少ない缶の中身を煽る。

「お前、顔いいからな」
「そんなん、クラのがかっこいいじゃん」

クラが肩にのっけたままの頭をポンポンと撫でてくれた。俺が言い返すとそうか? とわかってなさそうな返事。

「そうなのさ。クラは男前だし怖そうだけど優しくて友達想いだしー俺クラ大好きだもん」
「ふうん」

低い笑い声が音と振動で伝わってくる。目線をあげてクラをうかがうと切れ長の目が俺を見ていた。

「じゃあカグは俺と付き合えばいいよ」
「え」

ぽかんと口が開いたのが分かった。鋭い瞳を優しく細めたクラの唇からこともなげに零れた言葉を反芻する。俺はのろのろと体をおこしてクラと向かい合う。
彼はうっすらと口角をあげたまま手を伸ばして俺の耳たぶをするりと撫でた。耳たぶというよりはそこを飾るピアスに触ったんだろうけど首筋がぞわりとして俺は首を竦めた。


「クラと俺が付き合うの?」
「いや?」
「いやっていうか、俺、男だよ」

馬鹿じゃないのとかキモイ冗談いうなとかよりなんでクラがそんなこと言うの? って気持ちのが強くて呆けたままそう言うと、クラはまた笑った。白くて尖った歯が見える。


「知ってる」
「クラ、俺のこと好きなの?」
「好きだよ」

さらりと言われた。いや、そりゃ俺もさっき言った通りクラのこと大好きだけど、クラはどういう意味で俺のこと好きなんだろう。
恋愛感情? でも俺男ですよ? と頭の中で思考がまた最初に戻った。

「難しく考えなくていいじゃん」


俺より一回りはでかそうな手が輪郭を掠めるようになぞってから右の頬を包み込んだ。ゆっくりとクラのうらやましいくらいかっこいい顔が近づいてきてぽかーんと眺めているうちに唇がくっついた。
ふに、ふに、と柔らかい感触が優しく触れてくる。男の唇も柔らかい。と単純明快な感想を抱く。

クラからいい匂いがする。気持ち悪いとかはなくてそのまま動かずにいたら緩んでいた唇を割ってとても熱い舌が入り込んできた。
びくっと震えた腕をなだめるように摩られる。上あごをくすぐり頬の内側の柔らかいところを舐める舌の動きにどうしたらいいか分からなくなる。

受け身のキスは初めてだし、俺は別にキスがうまいわけではない。中途半端に宙に浮いていた手で恐る恐るクラの胸元あたりの服を握ると、頬にあった手が後頭部に移動した。
正直に、気持ちいい、けどなんだこれ、俺クラにキスされてる。



「―っん!」

舌の真ん中で主張しているであろうピアスを、ぐりっとえぐるように舐められて俺はいつの間にか閉じていた目を見開いた。
反射的にぐいっと胸を押す。クラの体はいともあっさり離れた。息を乱しながら見ると、クラは濡れた唇をぬぐいながらニヤッと笑った。

虎とかライオンがぱっと頭のなかに浮かんで消える。肉食のオーラがすごい。


「舌ピの感触おもしれえな」
「へ、あ、え?」
「気持ち悪かった? 俺とキスするの」

ふにゅっと唇を押された。キス、と繰り返してからさっきの行為を振り返ってぎこちなくかぶりを振る。

「俺はカグが実は純情くんなのも甘えたがりなのもわかってるし、さっきみたいなキスもセックスも慣れてないのも知ってる。」

「大事にするし俺からお前を振ることはない。お前が恋人とやりたいと思ってることも、俺でよければやってやるよ」


だから俺にしとけ、とそれはそれは優しく甘やかに微笑まれて盛大にときめいてしまった。
我ながら単純だと思いながら、どんどん熱くなる顔をそのままに俺は首肯したのだった。





(あーやっと捕まえた)
(? なんか言った?)
(なんにも?)




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