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□完全敗北宣言
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突然だが宣言しよう。俺は女の子が好きだ。柔らかくて仄かに甘い匂いがする体を腕の中に閉じ込めるのは至福である。癒しである。
少しでも可愛く見せようと努力している様も好きだ。俺はメイクが詐欺だなどとは思わない。最近流行りのプチ整形も肯定派である。

女の子が可愛いのは顔の内容がどうこうではなくどれだけ努力して自身を磨いているかによると思っているからだ。
そんなわけで可愛くあろうと努力をしない女の子はあまり好きではないのだけれど。

そんなほんの少しの例外など考慮しなくていい程度に俺は女の子が好きだ。
女の子が、好きなのだ。



「俺が好きなのは女の子なんだよおおお!!」
「え、うるさいんだけど」

机に肘をついて頭を抱え大声で主張した俺に対する友人の反応はすこぶる冷たかった。

泣くぞ!?


「裕也! 俺は女の子が好きだよな! そうだと言え!」
「なんなのキモイ。そうだよお前は女が大好きだよ」

だからどうした、と鬱陶しげに裕也は俺を睥睨する。昼休みの教室には俺たち以外にも結構な人数が残っていて、皆何事かとこちらを見ているが俺はそれどころではない。
身を乗り出して「実は―」と声を潜める。裕也が顔をしかめた。ひどい。


「はよいえや」
「最近、隣のクラスの潮井くんが気になって仕方ないんです」
「潮井ぃ?」


早口の小声でそう告げる。裕也は片眉を持ち上げて名前を繰り返した。
そう、潮井“くん”だ。最近俺の目を奪うのは可愛い女の子たちではなく、隣のクラスの男の子なのだ。

大問題である。一大事である。潮井くんが女の子っぽいとかそういったことは一切ない。
すらりとした体躯で、陸上部の短距離走者だから筋肉も綺麗についていてどちらかというとかっこいい、それはそれは立派な男子である。


男子、なのである。


「え、なに。ホモ?」
「せめてゲイといってくれ―」
「は? まじで? そういう意味の気になるなの?」

ぱちぱちと目を瞬く裕也。何言ってるんだこいつ、という表情がありありとその顔に浮かんでいる。
俺はわからないと首を振ってから額を覆って机に突っ伏した。


「なぜだ―俺に何が起こっている……」
「俺が聞きたい」
「いや、俺が聞きたい」
「お前のことだろうよ……」


わかっとるわ! 裕也に相談しても何の解決にもならないなんてこともわかっとるわ!
俺は現実逃避を図ってそのままふて寝することにした。



▽▽▽


放課後だ。まだまだ日が落ちる時間には早く空は腹立たしいほどの青。


「久郷ーカラオケいきまっしょい」
「行かねー」
「え、まじで? なんで行かんのよ〜」
「そうよ久郷ちゃん! ワタシとオケりましょうよ! デュエットよ!」
「ごめんなさい、今日はそんな気分じゃないの……」


女言葉で誘ってきた友人に同じように女言葉でシナを作って見せる。ぎゃははと笑い声があがってみんなはまた今度なと手を振って帰って行った。
腕を引っ張られて歩いていた裕也はちらりとこちらを振り返ったがなにも言わなかった。



玄関のある方向とは逆に向かうと帰っていく何人もの生徒たちとすれ違う。結構帰宅部多いんだなあとどうでもいいことを思う。

辿り着いたのは一階にある保健室。先生も生徒もいないそこはシンとしていて消毒液か何かの匂いが微かにした。
俺は保健委員だ。で、広い学校内に二つある保健室のうち、ここ第二保健室の留守番要員。

五時過ぎくらいまでここでお留守番をするだけの簡単なお仕事だ。当番制になっているが週のうち水木金は俺の担当になっている。
ちょっぴり人手が足りないことと保健医と仲がよかったことが主な原因だ。


まあそれは置いておいて、ここの窓からはグラウンドが―正確に言えば陸上部の練習風景がよく見える。俺の視線は時間中ほとんどずっとそこに向かっている。
黒シャツに陸上部専用な高校名入りの紺色のジャージを纏った長身でも小柄でもない平均的な身長の潮井くんの姿を、俺の目は探すまでもなく見つける。

見つけてしまうのだ。なぜか? そんなことは俺が知りたい。

いや、ごめんやっぱ知りたくない。




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