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□だから神様は特別を作った
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和泉は大きさには目を瞑って服を着ると脱衣所を出た。リビングに長身が見当たらずきょろきょろと視線を彷徨わせれば、キッチンから出てきた崇興と目が合う。

その手には湯気のたつマグカップが二つ。


「ゆっくり出来たかい、和泉ちゃん」
「はい、ありがとうございます」
「こっちに座んな」


手招きされてソファーに腰かけるとマグカップを一つ手渡された。ホットミルクだ。もう1つのカップの方はコーヒーである。
わざわざ自分の為にミルクを温めてくれたのかと和泉は微かに頬を緩める。

じっとその様子を見つめていた崇興がふっと目を細めて和泉の頬を撫でた。


「落ち着いたみたいだな」
「はい……鬼島先輩のおかげです」
「敬語なんかいらねェよ。それに、崇興でいい」
「崇興先輩?」

「崇興。」
「―崇興……さん」


和泉は1つ年上で知り合ったばかりの崇興を呼び捨てにできるようなタイプではなかった。顔つきは生意気そうだとよく言われるが実は礼儀を気にする律儀な人間なのだ。
敬語はなくせと言うならば言う通りにするが、呼び方はこれが今現在の精一杯であると目で訴える。

しっかりとその意を汲み取ってくれたらしい崇興はふむ、と頷いて「それでいい」と和泉の濡れた髪を梳いた。
それからタオルを手に取って優しく頭を拭き始める。和泉は慌てて口を開いた。


「自分で―、」
「和泉ちゃんは、その中身をゆっくり火傷しないように飲むことが仕事」


そう言い出すことが分かっていたかのように返される。和泉は大人しくホットミルクに口をつけた。
真っ白の液体はほんのりと甘く蜂蜜の味がした。




粗方髪を拭き終えると崇興は寝室へ行って手当に必要なものを持ってきた。まずは両手首を片方ずつ、丁寧に処置してもらい、他に怪我はないかいと尋ねられる。

「お腹―、連れていかれる時に殴られた」


風呂で見下ろした際に、既にうっすらとあざを作り出していた腹を見せるためにぶかぶかのシャツをめくってみせる。
崇興はぐっと眉間に皺を寄せた。心配してくれていることを知らなければ震えながら謝り倒してしまいそうな表情である。


「かわいそうに、痛かったな」

誰がどう聞いても甘やかしている声音と優しい口調。
ついでに頬をさするように撫でて痣にそっと口づけまでされれば、和泉が彼をいい人、優しい人にカテゴライズしてしまうのも当然であろう。


自らが人見知り気質であることも忘れて思わず「もっと撫でて」とばかりに大きく無骨な手にすり寄ってしまう。

「可愛い、和泉ちゃん」

少しひやりとする湿布を張り付けその上からもう一度唇を触れさせると、崇興は流れるような動作で和泉をその膝の上に抱き上げた。
物慣れぬ密着に気恥ずかしさを感じながらも、和泉は大人しくされるがままだ。


「―崇興さん」

小さな声で名を呼んでみる。とても近い距離だからだろうか、崇興が嬉し気に目を細めたのが和泉にはちゃんと見えた。


「和泉ちゃん、俺の大切な子になってくれるかい」

幼子を甘やかすような手つきで背中を撫でられ低く囁きかけられる。


「大切?」
「和泉ちゃんを大事にしたい。可愛がりたい。甘やかしたい。」


なあ、いいか? と彼が問う。

間近にある目は狼のようなアンバーだ。

日本人には珍しいその色を有す瞳に見惚れながら和泉はゆるりと確かに頷いていた。
にい、と凶悪な笑みを浮かべた崇興を見て一瞬早まったかもしれないと思ったけれど。



彼の言葉を嬉しいと感じたのは紛れもなく本当なのだからそれでいいと和泉は心中で頷いた。




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