短編

□アンハッピーバースディ
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TVの中。商店街。





「よぅ、凪。なんだ辛気臭せぇ顔して。」



ヘッドホンを首にかけた茶色髪の青年が声をかけた。

その青年の瞳は金の怪しげな光を宿している。





「…………俺は、さ。」



「……別になにが欲しいとか、思った事なくてさ。…まぁ、今1番欲しいのはループからの脱出方法だけど。そーゆうのじゃなくて、」



つまり、なにがいいたいのかというとさ。




「誕生日、祝ってくれないか」




銀髪の青年は、至って真面目な顔でいった。








アンハッピーバースディ



















「誕生日、?」



「あぁ。」




「ふーん…祝って欲しい、ねぇ?だったらオモテのオトモダチに頼めばいいじゃねーか。なんで俺?」



訝しげな顔をする茶色髪。



「いや、オモテじゃ駄目なんだ。こっち側でやらなきゃ。それに、」



あっちの皆は覚えてないから


そう悲しげに凪は呟いた。






「………こっち側でも、覚えてないやつ、いるだろ。」


覚えてたり、忘れてたり。それは、こっち側の皆でもまちまちである。



でも。









「ヨースケは、俺がループしてから、俺の事、忘れた事無いだろ」


「っ……!そ、そんなん、俺が”退場”すんのが、早えから、だろ。」

ループの感覚が短すぎるから、忘れねぇんだよ!

と、慌てて言う。





「それでも、お前は俺を忘れない。この100回目の誕生日を、忘れないお前に祝って欲しい。」



「ひゃく…もう、お前もそんな歳か。」



「俺がそんな歳ってことは、お前もそんな歳ってことだぞ。」


「だーっ!!やめろよ!俺はまだぴちぴちの17だっての!」




「ぴちぴち……くっ」


笑うんじゃねー!といいながら茶色髪の青年は怒る。




だがすぐにふ、と笑った。




「…でも、気の利いた物はやれねぇよ?」



「言っただろ、何が欲しいとかじゃないんだよ。」


「じゃあ何が良いんだ?オメデトウなんていって欲しいのか?」


「あはは、それいいな。おめでたくない事おめでとうなんて。」




「いいのかよ!」





しばらく2人で笑いあった。






「……100回目の糞みたいな世界おめでとう!絶望に満ちた世界おめでとう!光の差さない真っ暗なバランスもひねりもない100回目の一年間おめでとう!!しね!」


と凪が無理矢理な明るい声で叫ぶ。



その声は、震えていた








「…………めでたくない誕生日おめでとう!!凪の苦しみ哀しみも理解出来ないもはや知ろうともしないカスみたいなオモテの仲間共も100回目の一年間おめでとう!知ろうともしねぇでへらへらしてんじゃねぇよオモテの俺!!しね!」



渾身の怒りを含んだその叫び。


「ヨースケ…。」



「あー、えっと、凪。俺、これだけ言っとくぜ。」






「俺は、”凪”を忘れない。………………だから、泣くなよ。」


「泣いてない。」


「じゃあこっち向けよ。」



「やだ」


凪はそっぽをむいて、道路脇の段差に座りこんだ。




ヨースケもその隣に座り、凪の方にもたれかかる。




「……ヨースケ、俺今日、さ。最悪な日だと、思ってたんだけどさ。なんていうか、その、」


「おう」


「すごく、幸せな日、なのかもしれない。」



「……そっか。」




「んじゃ、こう言わなきゃな。」










「ハッピーバースディ、凪。」



そういって、ヨースケは凪の頬に伝った物を指先で拭った。












アンハッピーバースディ

アン(ド)ハッピーバースディ

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