読み切りSS

□つくづく敵わない
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貴方は#グクジェで『つくづく敵わない』をお題にして140文字SSを書いてください。 http://shindanmaker.com/375517
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ヨングクは今日も宿舎のベランダで、夜景を見ながら煙草を吸っていた。
今夜は晴れて遠くの景色までよく見える。
メンバーのうち、喫煙者は一人だけだから、一応気を遣って部屋の中では吸わないようにしている。

カラカラと窓の開く音がして振り返ると、ヨンジェがベランダへ出てきた。
「ヒムチャンヒョン、拗ねてましたよ。また大事な事を1人で決めたって」
自分が、ヒムチャンが拗ねるような事をしたのか?とすぐに思い当たらなかったが、
(あ、タトゥーのことか)
自分のタトゥーを増やしたことは個人的なことだから、敢えて前もって言う必要もないと思っていたのだが。

「予想外だったって顔されると、ますますヒムチャンヒョンが可哀想になりますね」
ヨンジェがため息混じりに呟く。
「何で、ヨングクヒョンの口から直接じゃなくて、ツイッターで知ることになるんだ、って怒ってましたよ」
「ああ、そうか。…わかった。ヒムチャンには謝っておくよ。今部屋にいるかな」
「少し前に1人で出かけていきましたよ」
「そうか。じゃあ後で話しておくよ」

毎度こうしてヨングクとヒムチャンの橋渡しをしてあげて、つくづく世話の焼けるヒョンたちだなと思う。

「ヨンジェ、いつも悪いな。俺たちの間を仲介するようなことをしてもらって。…俺も口数が少なくて、なかなか伝わらないことも多いんだろうけど、あいつも、素直じゃないというか」

ヒムチャンは、メンバーの中で一番自分の感情に正直だ。感情がすぐ表に出るけれど、いつも嘘がないというのがわかるから、そんなところも人を惹きつけるのだろう。
「まぁ、仲間であれ他人同士ですから、言わなきゃわからないこともありますよ」
「うん、そうだな。わかってはいるんだけど。なかなか難しいな」

それでも、その2人の間に流れる特別な空気感があって、他の介入を許さないような特別な間柄で。自分はヒムチャンにはつくづく適わないと思い知らされる。
それは、2人が同い年だからだろうか。それとも、過ごした時間の長さに因るところなのだろうか。

(ヒムチャンにあって、僕に足りないものは何ですか?)
デビューしてから今まで、ヨングクに追いつきたい一心で、歌もダンスも仕事に関わることは全部頑張ってきた。
彼に、自分がグループ内で足を引っ張る存在と思われたくない。リーダーから切り捨てられたくない。その一心で。

(ヨングクヒョンにはわからないと思いますが、僕はずっと、あなたに認められたくて頑張っているんですよ)
でも、彼にとって自分は、手のかかる子供のうちの一人にすぎないのだろう。
どれだけ羨んでも手に入らない、どれだけ望んでも手に入らない。
ヨングクに一番必要とされて、いつも隣にいるのはヒムチャンで、自分ではない。

隣に立ってヨングクの顔を覗いてみる。
ヨンジェが黙っていると、ヨングクがヨンジェの頭にぽんと手を置いた。
「ヨンジェも俺が知り合った頃よりだいぶ大人になったな。頼りにしてるよ」
その手のぬくもりと、と温かい眼差しで微笑みを向けられると、それだけで報われた気持ちになる。
ただそこには、安らかな気持ちと、嫉妬のような気持ちが同居して、心にちくりと痛みが走る。

ヨングクは煙草の火を消して部屋に戻ろうとする。
「中に入らないのか?」
振り返ってヨンジェに声をかける。
「ちょっとだけ外の風を浴びて戻ります」
「そうか。風邪ひかないように気を付けろ」
と言って、ヨングクは部屋の中に戻っていった。

ベランダに残った、煙草の匂い。
ヨンジェはその僅かに残ったヨングクの気配に寄り添ってみた。
さっきまでそこにいたヨングクの横顔を思い出していた。

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おしまい。
 

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