読み切りSS

□ピアノを弾いてほしいとせがまれる
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あなたは『ピアノを弾いてほしいとせがまれる』#グクヒムのことを妄想してみてください。 http://shindanmaker.com/450823
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校舎の外に出ると、眩しいくらいの日差しに、真っ青な空に白い入道雲。
日常を切り取ったこの景色を、これからこの先思い出すことがあるだろう。そんな気がした。

午前中の補講が終わって、午後は生徒たちは部活動に参加したり遊びに出かけたり、皆思い思いの時間を過ごす。

(あ、また今日も)
この時間に校舎の外に出ると、いつもピアノの旋律が聞こえてきた。誰か音楽室でピアノを弾いているようで。いつも補講が終わった後に聞こえてくるから、同学年の誰かだろうか。
一体誰が弾いているのだろう。何となく気になっていた。

また次の日も、いつも通り音楽室からピアノの旋律が聞こえてきたから、音楽室を覗きに行ってみた。


音楽室の扉は空いていて、開けられた窓から爽やかな風が入ってきて白いカーテンを揺らしていた。
広い教室の中で、ひとりピアノを弾くすらりとしたシルエットが見えた。

「放課後のピアニストの正体はバンヨングク君だったんだ」
俺が話しかけると、ピアニストは怪訝な顔をしてこちらを見た。

(ーーー知ってる。隣のクラスのキムヒムチャン。
人好きのする顔。部活動はしていないが、友達も多いようで、話したことはないけど、何となく目立つ存在)

「どうして学校で弾いてるの」
「…家に兄弟がいるから、勉強の邪魔をしないようにしてる」
「ふぅん。ヨングク君優しいのね。ねぇ、ギャラリーとしていてもいい?」
と言って教室の椅子に腰掛ける。
「…誰かに聞かせるために弾いてるわけじゃないんだけど」
ヨングクは言葉を表情を変えずにぽつりぽつりと喋る。
「まぁまぁ、俺が勝手にいるだけだから、お気になさらず」
俺がヒラヒラと手をふって笑っていると、ヨングクはしばらく黙っていた。
急に話しかけて怒らせたかと、とちょっとびくびくしていたが、ヨングクはふっと息を吐いて、ピアノのほうに向き直した。

奏でられる優しい旋律。
細く長い指に整った横顔。
素直に、綺麗だな、と思った。

気がついたら静かに演奏が終わっていた。
「いいね、その曲。誰の曲?」
「…ラヴェル」
「へぇ。うん、俺この曲好きだな」
というと、ヨングクがこちらを見て今日初めてふっと微笑んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ピアノ、久しぶりに弾いて聴かせてよ」
しばらく弾いてなかったからうまく弾けないよ、なんてヨングクは言いながらも、奏でられる旋律はあのときと変わらず優しくて、俺は初めて音楽室でヨングクのピアノを聞いたときを思い出していた。

演奏が終わって、鍵盤の上に置かれた指にそっと触れた。
「…ずっと好きだった。今もだけど」


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おしまい
 

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