短編

□光風霽月if
1ページ/1ページ





庭の椿を愛でていると、その愛らしさに思わず笑みが零れる。




「貴女は……いつも笑っているのだな。」




暗く沈んだ低い声。ゆっくりと後ろを振り向くと、其処には彼がいた。




『そういう勝家さんは、相変わらず悲しそうなお顔ですね…』



「私はこの世に命を授かった時からこの顔だ……、だからあのお方は私を見てくださらないのか…。」



『またまた…。』




戦国時代にトリップして丁度一月。

落ちた場所は森の中で、そこを偶然通りかかった勝家さんこと、柴田勝家に拾われ、今は北ノ庄城で暮らしている。


出会ったばかりの頃は怪しがられていたものの、一月も経てばこの世界に馴染めてきた。

だが、彼から話しかけてくるのは珍しい。



彼は良い人なのだが、少々性格に癖がる。




「っ…お市様…!」



『あぁ、また始まった…元気出して下さいよ。私がいるじゃないですか。』



「貴女はお市様ではないっ!」



『分かってるよ!もうっ…本当、ストーカーとかにならないで下さいね。嫌ですよ、そんな勝家さん。』



「すとぉ…かぁ…?」




眉間に皺を寄せながら聞き返す勝家の手を取る。結婚線チェックだ。




「っ、何を…」



『勝家さんがいつ結婚出来るか診断してあげます。手相占いですよ。』



「…貴女の居た未来では、手相からそんなことまで分かってしまうのか。」



『あくまで占いですけどね…確証はないけれど、結構当たっちゃいます。』



「………」



『………』



「………」



『………』



「………」




『……結婚線、無いですね』




沈黙の後初香が苦笑しながら言った。勝家は自嘲的な笑みを浮かべると、がくりと項垂れる。




「………やはり、私が足掻いた所で未来は変わらぬか……」



『いやいやっ、あくまで占いですから!当たりませんって!!』



「先程貴女は、当たると言った」



『っう……』



「やはり、私には無理なのだ…きっと来世でも手が届かないお方なのだろう……!」



『ね、ネガティヴ……!駄目ですよ、悪い方向に考えたらどんどんそっちに行っちゃいます!』



「ねがてぃぶ…きっと、私の様な男によく当てはまる言葉なのだな…?」



『うわぁ…』




きっと何を言っても無駄なパターンだ。どんな言葉も彼には届かない。彼は良くも悪くも思い込みが激しいのだから。

折角のイケメンな顔が俯いているおかげで台無しだ。


こんな事なら手相占いなんて止めれば良かった、と初香は頭を抱える。しかも結婚線なんて……

せめて生命線とか、KY線とかそういうものにしておけば良かったんだ。



こうなってしまったものは仕方ない、初香はそう割り切ると、おずおずと勝家の両頬に人差し指を添えた。


そしてそのままクイッと指を上に押し上げる。




「な、何を…女性がこうも容易く男に触れるなど……!」



『笑いましょ。』



「……は?」



『勝家さん笑い方知らないんですか?だったら私が教えてあげます、ふふ。』



「否、知らない訳では……」



『笑っていると、良い事がたくさん起きるんですよ、だから笑いましょう!!……私もこの世界に来て、不安ばっかりですけど……ずっと笑ってたら、勝家さんとお話しできました。』



「…?」



『ほら、さっき…貴女はいつも笑っているのだなって、話しかけてくれたじゃないですか。私が笑ってたから、話しかけてくれたんですよね?いつもは勝家さんからは話しかけてこないのに。』



「……」



『ほらほら、笑ってくださいっ!私がお手本ですから!!信じていれば、お市さんだって振り向いてくれますよ!!きっと!人妻だけど!!!』




そう言ってニカっと思い切り笑った初香に、勝家もつられて口角を上げた。

こんなに顔をくずして笑う女性は初めてかもかれない、と妙な感動を覚える。


夜を抱くあのお方の儚げな憂い顔も良いが、この屈託のないこの笑顔も悪くない…と。




そして、無理矢理口角を上げているうちに何故だが、初香の言う通り明るい気分になってきてしまった。



…もしかしたら、あのお方が振り向いてくれるかもしれない。



そんな淡い希望にまた微笑む。



だがそれよりも………




「私は…貴女でも構わないのかも知れない…。」



『でも≠ヘ余計ですっ!!…はぁ、なんか、私がお市さんじゃなくてすみませんでしたね。』



「あぁ、仕方ない。」



『…はぁ。』




貴女の笑顔は、どうして私の心に光を差すのだろう。





ーーーーーーーー
ifバージョン、もしも夢主が勝家の所にトリップしたら。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ