番外編

□傷
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三成は女中に持って来させた手当の道具を傍に置くと、鈴香の手をとった。


痛々しく包帯の巻かれた手は、すっかりと冷えている。





「冷たい。」




『…冷え性なので。』




泣き腫らした目が三成を捉える。目は赤く充血し、睫毛に付いた雫を見ると、何とも言えない罪悪感に襲われた。


そして困った様に笑むその儚さに、三成は目を伏せる。




「あの女…井伊が言っていた、酒癖の悪い男に絡まれ転んだと。」




包帯を解いていくと、痛々しい傷がそこにはある。想像より酷い傷跡に、三成は眉を寄せた。



「痛むか?」



『…もう全然痛くないですよ!』



「……本当に転んだだけだろうな?」



『え、はい。』




嘘はついていないようだ。やはり鈴香は並の人間より鈍臭く出来ているらしい。転んだだけとは思えない傷跡に溜息が漏れた。


そんな三成に、機嫌を損ねてしまったかと鈴香は不安気に顔を覗き込む。






『っ…三成さん…?』




「……案ずるな、怒っているわけではない。貴様も一々私の機嫌を伺うな。」




『っ…ごめんなさい。』




そう言って俯いた鈴香にしまった、と口を閉じる。

家康と違い、些細な事で鈴香は傷付く。刑部にも度々言われるが、自分の物言いはどうやら他の人間に比べて冷たいらしい。女中達も私の態度に怯えて近寄っては来ない。



…改めるべきか。



そう思って謝罪を口にしようとすると、ほぼ同時に鈴香がくしゃみをした。





『っあー、寒いっ』




もう冬ですね、そう笑って見せる鈴香に自分の杞憂は何だったのだ、と三成は再び無音の溜息を漏らす。


三成は呆れながらも羽織を脱ぐと、鈴香の肩に掛けてやった。





『あ、ありがとうございます…!』




「貴様の体調管理は貴様で何とかしろ。風邪など引いては半兵衛様にご心労をおかけする。」




『…半兵衛さん、ねぇ…』




やはり三成は自分のことなんて心配してくれないのかと、鈴香は一人溜息をつく。


三成は先程のやり取りを思い出して、慌てて続けた。




「…とにかく、病人を看てやれるほど私も暇ではない。私の執務が滞ったならば、貴様の責だ。」





その不器用な優しさがたまらなくらくすぐったい。





『はーい。』



「手を貸せ、布を変えてやる。」




再び手を取られ、三成は塗り薬を塗ってやる。暫くそれを見つめていたが、鈴香は不意に肩に掛けられた羽織を握り締めた。




『…前から思ってたんですけれど、三成さんの羽織っていい香りがしますね。』




官兵衛と出会った時に気が付いたことだ。上品な香の香りに自然と頬が緩む。




「特別変わったことはしていない。匂いなどと、貴様に初めて言われた。」



『そうなんですか?こんなにいい香りなのに…』





不思議そうに首を傾げた鈴香を見て、三成が目を反らす。





「距離が貴様ほど近い者は居なかったからな。」





『はへ…?』




心臓がバクバクと鳴る。

い、今のは一体…どういう意味なのだろうか。否、それ以上の意味がないことは分かっているが…



包帯を巻き終えた三成は立ち上がる。





「もう遅い、若い女の部屋に長居するわけにもいかん。」



『あっ、えっ、はい、ありがとうございました…』





三成は機嫌良さそうに鼻を鳴らすと襖に手をかける。そのまま出て行くかと思いきや、ゆっくりとこちらを振り返った。





「鈴香…また、明日…」




そう言った三成の顔が、少し照れていて。




『…!』




声が出なくて、鈴香は必死に頷いた。



体が熱くなるのが分かって、思わず唇を噛みしめる。



『…やっぱり、傷痛むや。』










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ラブラブさせたかった。
 

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