ゆめ

□無意味な話
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私を監視し続けている、ガラス玉のように輝く無機質な瞳をじっと覗き込む。さすがに思考を読むほど高度な技術は組み込まれていないはずなのだけれど、こんなに見つめ合っていると私の邪な考えがばれてしまいそうだななんて思ってしまう。それは、まあ、疚しいことがあるから特にそうなのかもしれないけれど。でもだからと言って臆していたって仕方ない訳で。どうしたものか…。

「また変な遊びしてんのか?楽しいんなら俺も混ぜろよ」

考え込む私にからかうような声色で話しかけてきたのは、私たちの悪戯じみた行動の片棒を担いでいると言ってもいいカルロスだった。馬鹿にしたように口元を緩めながらこちらに歩み寄ってきて、ふざけた様子で私の横に立ち同じようにアクセサリの顔を覗き込む。むかつく。

「はは、こりゃ楽しいな?」

「うるさいな、楽しくてこんなことしてるんじゃないですし!」

むっとしてそう言うと彼はへらへら笑いながら、じゃあ何をしている?と問いかけてきた。彼と会話しているといつの間にか騙されているし全部冗談にすり替えられて調子が狂うので答えたくない。が、黙っていると黙っているで都合のいい解釈をされてペースを乱される。つまり絡まれた時点で諦めておとなしく遊ばれるのが唯一の大人な対応なのだと自分を納得させるしかない。

「…アクセサリをいじってもらったのですが、一見何も変わっていないので不安だなあと思っていただけです。ぶっつけ本番で使うの」

「ほう…お前らが助けたっていう市民を疑ってんのか?お前の疑り深さは俺だけに向けられてるわけじゃなかったんだな」

「違います。違いますけど、実感ないっていうか、あんな簡単そうにやってのけられると拍子抜けというか何というか」

今のこの会話だって常に見られているような感じがして居心地が悪い。それなのに本当に人差し指を唇の前で立てるだけで記録を改竄なんてできるのだろうか?ユリアンが仕組みを長々と語ってくれたけど一つも理解できなかったし、改造後も様子が変わったようなところは一つもなかったし、疑っている訳じゃないけどもしもこの後マティアスとお口チャックシステム使った結果作動しなくて仲良く刑の加算なんかされたくないし。

「じゃあ、試してみるか?」

「え?」

「ほら、やってみろよ」

「え、え、」

ぐいぐい腕を持ち上げられ半強制的にお口チャックのポーズをとらされる。その後の時間は流れるように過ぎ去ったもので、頭は真っ白、瞳は目の前で起こったことについていけずにまるで断片的に映像を切り取って記憶したような曖昧さでしかその時のことは語れない。
アクセサリが後ろで手を組み何かを言った。あら本当に作動したじゃないよかったわ、と思う間もなく後頭部を固定され横にいたはずのカルロスが真正面に。意地の悪く歪められた表情が印象的で、いつも通りのはずなのに頭から離れなくて。瞬き一つする間にその距離はゼロ。温かく唇が湿り、それからかっと体温が上がって、反射的に振り払おうとした手は空を切って。からっとした笑い声と、やっと何が起きたか把握出来てきた為に大きく音を立て始める心臓がうるさい。

「ほら、お咎め無しだろ?よかったな。それじゃ美女探し頑張れよ」

ひらりと手を振って背を向ける彼が憎くて仕方ない。未だに熱が残っているのではと錯覚するように熱い唇を袖で擦って、後ろ姿にぶつける言葉が見つからないまま大きく息だけを吐いて地面を蹴る。
冷静になってみるとモザイク街だからPTの監視外だしあんな色気も何もない悪戯が不純異性交遊の違反に引っかかる訳ないし、ああもうまたからかわれた悔しい!

…というような憤りや恥ずかしさは全部、美女探しに浮かれているマティアスに八つ当たりするとして。
一定時間を超えたのかいつも通り貢献を促してくるアクセサリに少しほっとしながらも、まだ胸がドキドキして鬱陶しい。誤魔化すようにうるさいなとアクセサリに暴言を吐いたら10年頂きましたとさ。



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