お話W

□W
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※単体夢主

ハラハラと、空から降ってくる雪はいっこうに止む気配はなくて嫌だなぁ、なんて思わず声を漏らしてしまう。
ふと、隣をすれ違ったカップルを横目に見て何度目かの溜息を吐き出す。
仲睦まじく手を繋いで歩く彼女達にリア充爆発しろ、と小さくぼやいて冷えた手を上着のポケットに突っ込む。
吐き出す息はどこまでも白くて、春が来るのはまだまだ先だな、なんてどんよりと曇る空を見ながら歩いていれば誰かにポンポン、と肩を叩かれた。
「やあ、こんにちは」
「あ、ウタさん。こんにちはー」
それに誰だろう?と後ろを振り返れば、ニット帽を被ってサングラスをした4区のマスク屋の店主さんがとてもにこやかに立っていた。
いつものお出かけスタイルのウタさんに挨拶を返せば寒いね、なんて私の隣を歩き始めたウタさん。
そんな彼にそうですねー、と言葉を返してウタさんと並んで20区の通りを二人で歩く。
「ウタさん今日はお店は休みなんですか?」
「ウン、そうだよ。これからあんていくに行こうと思って」
豆を切らしちゃってね、と笑うウタさんにアソコの珈琲美味しいですからね、と声を弾ませれば君もどう?なんて私の顔を覗き込んだウタさんがどこかちょっと楽しげにその口元に弧を描いた。
本当ならばこれから家へと帰ってレポートの続きをやらなければいけないのだけれど、滅多に会う事のない彼からのその嬉しいお誘いに気がつけば喜んで、と言葉を返していた。
それに、そんな私を見たウタさんがまた笑みを浮かべたのを見てドキリ、と跳ねた心臓を誤魔化すようそんなウタさんからソッと視線を逸らし通りを見る。
クリスマスも終わってもう新しい年の準備に移っている街並みに、ホント12月は慌しいな、なんて思っていれば突然ビル風が吹き抜けて空から深々と降っていた雪が襲い掛かってきた。
「う、わっ……!?」
「わ、凄い風……」
顔にぶつかる雪たちに、堪らず顔を手でガードすればやっぱりあちらこちらから小さな悲鳴が上がっていて、コレだから雪は嫌なんだ…、とやっと止んだ風に一息ついていれば大丈夫だった?なんてウタさんに頭を撫でられた。
きっとさっきの突風で乱れたんだろう髪の毛に、ソレを直してくれるウタさんを見てありがとうございます…、と申し訳なさと恥ずかしさで顔を俯けた。
「冷えるね」
「そう、ですね……」
そう言ってはい、直ったよ。ともう一度撫でられた頭にありがとうございます、と返して顔を上げればあぁ、そうだ。なんて声を漏らしたウタさんが何故か首に巻いていたマフラーを外し始めた。
寒い、と言っているのになんでマフラー外しちゃうんだろう?と思っていれば、何故かソレを私の首へと回したウタさん。
「っ、あのっ?ウタ、さん……?」
「寒そうだったから、よければコレ使って?僕はそこまで寒くないからさ」
そう言ってご丁寧にも首元でマフラーを縛ってくれたウタさんに、満足げに頷くウタさんを見て大丈夫ですよ、なんて言えなくてすみません…としか言葉が返せなかった。
「じゃぁ行こうか」
「あ、は、はい!」
そう言って歩き出したウタさんに、そんなウタさんの後ろを少し離れて歩く。
前を歩くウタさんの首元はやっぱり少しだけ寒そうで、私の首へと移動してきたソレへとソッと手を触れる。
微かに香った彼の香水の匂いに、またドキリと心臓が跳ねる。
ウタさんのこういうさりげない優しさだとか、気遣いだとかが、きっと彼の魅力の一つでもあるんだろうな…、とそんなことを思っていれば不意に私を振り返ったウタさん。
「どうしたの?そんなに離れて」
「い、いえ!なんでもないですよ!」
そう言ってホラ。と手を差し出してきたウタさんに、この人のこういう誰にでも優しいところは少しだけどうにかしてほしいな…、と自惚れてしまいそうになる心を叱咤してそんなウタさんの手を取れば、温かいね、なんて笑ったウタさん。
そんな彼にそうですね。と笑みを返してまたウタさんと二人並んで20区の通りを歩き出した。



手のひらから熱


『知人』よりかは仲が良く、けれど『友達以上』かと聞かれれば曖昧な、そんな関係の二人のお話



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