お話W

□W
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※単体夢主

カラン、と鳴ったベルに拭いていた珈琲カップから視線を上げた四方はお店へとやってきた女性を見やるとそんな女性へと小さく会釈をした。
「……いらっしゃい
「こんにちは四方さん。ブレンドをお願いします」
「あぁ……」
かけた声に自分を見やり柔和な笑みを浮かべた女性に、カウンターから近いテーブル席へと腰掛けた女性を一瞥した四方はラックから新しい珈琲カップを取り出すとコーヒーミルへと手を伸ばした。
細かく挽かれた豆に、ポットを手に取った四方はふと、テーブル席に腰掛ける女性へと視線を向けると、本を片手に読書を始めた女性を見やり小さくその口元に弧を描いた。
たおやかな雰囲気を持つその常連客に、手元の珈琲カップへと視線を戻した四方は暫くして出来上がった珈琲を手にそんな女性のもとへと向かった。
「ありがとうございます」
「………ごゆっくり」
コトリ、と静かにテーブルに置かれた珈琲カップに、本へと落としていた視線を上げ自分を見やった彼女はやはり小さく笑みを湛えていて、ほんわかと温かくなった心に、それを気取られぬようソッとそんな女性から視線を逸らしそう言葉を返した四方は、再びカラン、と鳴ったベルにお店の入り口を振り返った。
「やぁ、蓮示君来たよ」
「……あぁ」
そう言って片手を挙げ軽い挨拶をした旧友に、店内をグルリ、と見回しテーブル席に腰掛ける女性へと視線を向けたウタに、そんなウタを見やった四方は、迷わずその女性の元へと歩き出したウタを一瞥すると再びカウンターへと戻っていく。
すれ違いざまブレンドお願い。と声をかけてきたウタにまたあぁ、と言葉を返した四方は女性の正面へと腰掛けたウタを一瞥するとラックから珈琲カップを取り出した。

「ごめんね、お待たせ。少し遅くなっちゃったね」
「いいえ、こうして待っている時間も楽しいですから」
「そう?ありがと。あぁ、そうだ。このあとなんだけど少し買い物に付き合ってくれるかな?」
「えぇ、もちろんです」

そう交わされる会話に、珈琲カップへと落としていた視線を上げチラリ、とそんな二人を伺い見た四方は、一言二言言葉を交わしては笑みを浮かべるウタに、そんなウタを見やり同じようにその顔を綻ばせる女性を見やると再び珈琲カップへと視線を落とし、知らず知らずのうちに溜息を吐き出していた。
芳村が経営していた『あんていく』時代からの常連客である彼女に、そんな彼女とは随分と古い付き合いである自分と、ウタとイトリ。
そんな彼女と結ばれたのは自分ではなく、奇抜な見た目の旧友で
恋人とデートをする際は何故か知らないが必ず自分達のカフェで待ち合わせをするウタに、出来上がった珈琲を手にそんなウタの元へと向かった四方は、テーブルへと置いたカップに自分を見上げたウタから視線を逸らすようすぐにそんなウタへと背を向けた。
「ありがと、蓮示君」
「……あぁ」
そうかけられた声にもウタを振り返らず言葉を返した四方は、後ろから聞こえてきたつれないなぁ、と言うウタの声に四方さんらしいじゃないですか、とそんなウタへと言葉を返す彼女をチラリ、と見やると、笑みを浮かべ向かい合う二人に小さく溜息を吐き出し拭きかけだった珈琲カップを手に取ったのだった。


初恋は叶わない、ジンクスさえも憎い
      確かに恋だった』様より『初恋にまつわる5題』


ずっとずっと好きだった。けれどそれを君に伝えることはもう一生ないのだろう……



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