お話W

□V
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カランカラン、と来客を知らせたベルに窓際の席に腰掛けチラリ、と誰が来たかを確認すれば、ソコには4区のウタさんが立っていてあぁ、今日は来た!とか思いつつ手元の本へと視線を落とす。
芳村さんとなにか言葉を交わすウタさんに、テーブル席にさえ座ってくれれば声を掛けるきっかけが出来るんだけど……と思っていればそのままカウンター席に座ってしまったウタさんにあぁ、もぅ…、と小さく声を漏らしてテーブルに突っ伏してしまった。
やっと赫子が出せるようになりましたよ、って……特訓の成果を見てもらいたかったのに……
いや、違うか……そんなの口実だ………
少しでもいいから、ウタさんと喋ることが出来るならなんだっていいのだ………
同じ喰種でも私とウタさんじゃ雲泥の差があるのは重々承知しているのだけど………だって、ほら……好きになってしまったものはもうどうしようもないじゃないか……!!!
元4区のリーダーで、今ではマスク屋をしている彼は面倒見が良いんだろう、赫子もまともに出せないような私にも声をかけてきてくれるのだ。
人を狩るのが苦手な私に穴場を教えてくれたり、何かと気にかけてくれる彼に好意を抱くのに、そう時間はかからなかった。
自覚してしまえば会いたいと思ってしまうし、会ってしまえば話したいと思ってしまう……
なかなかに自分じゃ制御しきれない感情に、今日はもう顔が見れたから十分だろ、と小さく溜息を吐き出していれば不意に誰かにポンポン、と頭を撫でられた。
「おぉい、大丈夫?なんだか凄く落ち込んでるみたいだけど」
「っ………!!だ、い、じょぶ…です」
芳村さんかな?と顔を上げればそこにはなんとウタさんが立っていて、テーブルに突っ伏す私を不思議そうに見ていた。
まさかウタさんがわざわざ声をかけてきてくれるなんて思ってもいなくて慌てて顔を上げればならよかった。と笑ったウタさんにまた胸が苦しくなる
「最近はご飯はちゃんと食べれてる?」
「も、もちろんです……!あっ!わ、私赫子が出せれるようになって………!!」
「そう、良かったね。タイプは?」
「う、羽赫でした!まだ全然小さいですけど……」
こんくらいで、と両手で大きさを示せば可愛いね、なんて笑ったウタさんが私の正面へと腰掛けて、よくよく見たらテーブルにはいつの間にかカップが一つ増えていた。
「羽赫タイプは体力の消耗が激しいからちゃんと体力付けておかなきゃダメだよ?」
「は、はい!」
そう言って頑張ってね、と笑みを浮かべてくれるウタさんに緩みそうになる顔をギュッと引き締めていればあぁ、そうそう。と言ってカバンから何かを取り出したウタさん。
「はいコレ、君にプレゼントだよ。あまり無理はしないようにね」
「え?あ、りがとうございます……?」
そう言って差し出された可愛らしい包みに、それを受け取ればどうやらそれは小瓶らしく結構な重みのある小瓶になんだろう?と首を傾げていればオヤツだよ、とそんな私を見て笑ったウタさんに、もう一度手の中の可愛らしい包みへと視線を落とす。
「あ、ありがとうございます!!」
わぁ!ウタさんのオヤツだー!
大事に食べよう!とソレを無くさないようにカバンにしまっていればまたそうそう、と声を漏らしたウタさんがねぇ、と声を掛けてくれたことになんですか?と声を弾ませる。

「ぼく、君の事が好きなんだけどどうしたらいいと思う?」

「……………ぇ?」
あまりにも突然過ぎるウタさんの告白に頭が真っ白になる。
好き………?え?ウタさんが………私を………?聞き間違いじゃなく………?
「付き合って、って言われたら……困る?」
「そ、そんな……ことは………」
「そっか、良かった。君の事が好きなんだ、良かったら僕と付き合って下さい」
そう言って優しい笑みを浮かべたウタさんに、ゆるりと握りしめられた手から伝わる温もりにあぁ、これは夢じゃないんだと思ったら涙が溢れてきた。
「よ、喜んでっ………!!」


今からきみに告白するよ
     確かに恋だった』様より【今からきみに告白します】


(じゃぁ早速なんだけど、これからデートに行かない?)
(え?あっ、は、はいっ!)
(映画観る?それとも買い物でもしようか?君は何がしたい?)
(わ、私はっ……ウタさんと出かけられるなら何処でも……!)
(ふふ、うん、分かった。じゃぁ映画観たあとに買い物しようか)
(は、はいっ!)

そう言葉を交わしながらあんていくを後にしたウタ達に、ずっと2人のやり取りを聞いていた芳村はふと、その口元に笑みを浮かべると珈琲カップを棚へと戻した。
「あの人、とうとうウタさんに落とされちまったな………」
「ご愁傷様………」
「こらこら、トーカちゃん、錦くん、やめなさい」
そう言ってハァァァ、と溜息を吐き出す錦と董香に、苦笑いを浮かべた芳村はずっと彼女に想いを寄せていたウタを思い出すとふふ、と笑みを零し新しいカップへと手を伸ばした。
「つか…………あの人いつもウタさんのことベタ褒めしてっけどよ、ウタさんが優しいのは基本あの人にだけじゃねぇか………」
「それを上手く隠すのがウタさんなんだっつの、クソニシキ」
そう言って可哀想に……と零した錦とハハ、と笑う董香にひっそりと苦笑を漏らした芳村はひどく嬉しそうだったウタを思い出すとまた小さく笑みを零したのだった。


密かに彼女に想いを寄せているウタとか。そんな彼女を振り向かせるべく彼女を巧みに懐柔してくウタさんとか。
好きな子を落とす為ならウタさんは結構何でもしそうなタイプですよねー、というお話


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