お話X

□安室T
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安室夢 ※単体夢主


今度の休みに何処かへ遊びに行こう、と言う友人からのメールに、その日は何か予定はあっただろうか?と返信の言葉を考えていればポタ、と携帯の画面に落ちた水滴。
溜まり水でも落ちてきたんだろうか?とソレを服で拭おうとした瞬間ポタポタポタ、と立て続けに液晶画面と頭に降り注いできた水滴にどんよりとし始めた空を仰ぎ見て、手にしていた携帯を慌ててポケットへと突っ込んだ。
一気に雨脚の強くなったソレに兎に角屋根の確保!!と同じように突然降り出した雨に軒下を求め走り出した人達を見て、視界に入った喫茶店の軒下へと駆け込んだ。
「もー……雨降るなんて一言も言わなかったじゃん……」
最悪、と今朝見てきた天気予報に愚痴って本降りになった空を睨みつける。
暫くは止みそうに無い雨に、まぁ講義は午後からだしそこまで焦る必要もないからまぁいいや、と濡れた髪を雑に振って水滴を払っていればカラン、と聞こえたベルの音。
「あの、良ければ中で雨宿りされてはいかがですか?」
「へ……?」
そう声をかけてきたのはきっと此処の喫茶店の店員なのであろう男の人で、人懐こい笑みを浮かべそう言った男の人を見てポカン、としていれば暫く止みそうにないですし、と雨の降る空を見上げ私へと視線を落とした彼はどうぞ、とまた笑みを浮かべると私を中へと促した。


あそこで断るのも申し訳なく、折角のご好意だから甘えさせてもらおう、と店内へと入ればお好きな席へどうぞ。と言ってカウンターに入って行ってしまった男の人。
お好きな席に、って言われても……、雨宿りさせてもらうだけだし……
さて、どうしたものか…、と店内を見回してみたけれどこの雨のせいかお客さんは私以外いないようでとても閑散としていた。
取り合えずあまり邪魔にならない席に、と思い窓際のテーブルへと腰掛け窓から外を見ればさっきよりも雨脚が強くなっていて思わずマジか…、と声を洩らしてしまった。
コレは中に入れてもらって正解だったな、なんて思いつつ窓ガラスに貼られる『喫茶ポアロ』の文字を見る。
大学への道すがら良くここは通るけど、お店に入るのは初めてだな、なんてぼんやりと考えていればコトリ、とテーブルに何かが置かれてそちらを振り返れば先ほどの店員さんがトレーを片手にテーブルの前に立っていた。
テーブルに置かれたケーキとドリンクに、ソレを見てニコニコと笑みを浮かべる男の人を見上げる。
「あの……?頼んで、ません、けど……?」
「あぁ、コレは僕からのサービスです。この雨ですし、他のお客さんも当分は来ないでしょうし」
皆には内緒ですよ、とどこか楽しげに笑みを浮かべ小さくウィンクをして見せた男の人は顔の造型が良いせいかその仕草一つでもとても様になっていて、ドキリ、と跳ねた心臓にそんな男の人から視線を逸らすようテーブルのアイスコーヒーへと視線を落とした。
「なんか……すみません。雨宿りさせてもらってるのにこんなものまでもらっちゃって……」
「いえいえ!というか、食べていただけると此方としても大変ありがたいです。なにせ急な雨だったので予定していた半分も出ていないんですよ」
そう言って少しだけ困ったように眉を下げた男の人に、ならお言葉に甘えて、と笑みを浮かべればそんな私を見た店員さんもニコリ、と笑うとごゆっくり、と声をかけカウンターへと戻っていった。
洗物を始めた店員さんを見て、テーブルの上に置かれたケーキへと視線を落とす。
ふわふわのパンケーキにかけられた生クリームとその上に乗せられたイチゴソースに、手作りなんだろうか…?と思いつつフォークを手に取りひとくち食べれば、絶妙な甘さが口いっぱいに広がった。
「ふわっふわで美味しい……!」
思わず漏れてしまったその声にハッとしてカウンターを見れば、やっぱり店員さんがコッチを見ていてキョトリ、と目を瞬かせた後小さく笑みを浮かべありがとうございます。なんて言葉を返してくるもんだからちょっと恥ずかしくなってしまった。
そんな彼に小さく会釈をしてケーキを食べていればガチャ、と奥の扉が開いてそこから女の人が顔を覗かせた。
「安室さん、買出し終わりましたよー」
「あぁ、梓さん。お帰りなさい」
「あ!いらっしゃいませ!雨の中ありがとうございます!」
そう男性店員に声をかけた女の人は店内に居る私を見ると満面の笑みを浮かべてくれて、それに小さく会釈をしてアイスコーヒーを手に取る。
男の店員さんも女の店員さんもとても親しみやすくていい喫茶店だな、と思いつつストローに口を付ける。
ってかさっき彼女が言った『安室さん』ってどっかで聞いたことある名前だと思ったら『毛利探偵事務所の下にある喫茶店で働いてる『安室透』さん』のことじゃないか、今JKの間でもの凄く話題の……。
あぁ、なるほど……あのルックスと笑顔に落ちない女子高生はいないわな……
後輩のツイートでちょいちょい話題に上がるその人物に、成る程騒がれる理由も頷ける。と梓さんと呼ばれた女性店員と一緒にカウンターに並ぶそのイケメン店員安室さんをチラリと見やる。
確かにイケメンであることに間違いはないけれど、女子高生のようにキャピキャピできる歳でもなし、年上の男の人に惹かれる気持ちもわかるけど、目の保養かな、と思いつつ窓へと視線を投げる。
だいぶ雨脚も弱まってきたし、もうそろそろ雨も上がる頃だろう。


恋愛未満の出逢い


SSオマケ→
燦燦と太陽の降り注ぐ日中に、もうすっかり夏だな…。とカラリと晴れた空を見上げていればあ!と聞こえてきた声。
「こんにちは、これから学校ですか?」
「あぁ安室さん、こんにちは。これから追試ですよ、追試……」
ポアロの通りを掃除していた安室さんにそう声をかけられ思わず講師が厳しくて、と愚痴ればはは、と笑った彼が頑張ってくださいね。といつものように人懐こい笑みを浮かべてくれた。
そんな彼にありがとうございます。と言葉を返せば反対側からやってきた女子高生たちが安室さんの姿を見つけるとタッとコッチに駆けてきた。
「あ!安室さぁん!席空いてるー?」
「やぁいらっしゃい。空いてますよ、どうぞ」
「やっりぃ!今日はあむぴ居る日だった!」
そう言って店内へと促した安室さんに、お店へと入って行く女の子達の顔はキラキラとしていて、恋する乙女だなぁ、と思いつつそれじゃぁ、とその場を後にしようとすればあぁ!と声を上げた安室さんに何故か呼び止められてしまった。
「日中から暑くなるみたいですから水分補給はこまめにしてくださいね。いってらっしゃい!」
「ぁ、はい……いって、きます」
そう言って箒片手に満面の笑みで手を振る安室さんにぎこちない笑みを浮かべヒラリ、と手を振りそんな彼へと背を向け歩き出す。
窓ガラス越しにチラッと見えた女子高生達の顔が洒落にならないくらい怖かったからそういうのは是非とも止めていただきたい。
とばっちりはゴメンだ。と思いつつまるで逃げるように私はその場を後にしたのだった。



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