お話X

□X
1ページ/1ページ

ウタ夢 ※単体夢主

ふと感じた左手の違和感に読んでいた本から視線を外して手を見れば、何やらウタさんが人の指に何かをまきつけていた。
「えー…っと、なにしてるんです?」
「うん?ちょっと借りてます」
そう言って小指にカラフルな糸を巻きつけるウタさんに、赤白ピンク、とそれぞれを編みこんでいく彼を見てテーブルの上に視線を向ければソコにはマスク製作で使う刺繍糸がいくつもコロコロと転がっていた。
いったいなにしてるんだろう?とそんなテーブルを見てウタさんへと視線を戻せば編み終えたその糸の先端を自分の小指に縛りつけていて、そこでようやく合点が言ったようにあぁ、と声をもらしてしまった。
「運命の糸ですか」
「うーん、ちょっと違うかな」
完成したカラフルなその糸を見て、そう声を洩らせばチラッと私を見たウタさんは持っていたハサミで出来上がったソレを無残にも両断してしまった。
「………ぇ?」
「んー……、違う色にしようかな……」
そう言ってスルリ、と小指に巻きつけていた刺繍糸を抜き取ったウタさんはテーブルに置いてあった別の糸を手に取るとまた人の小指に巻き付け始めて思わずストップの声を上げてしまった。
「あの、ウタさん……?人の指でなにしてるんですか?」
「うん?次のマスクに使う糸の配色決め?」
そう言ってコッチの色にしようかな、と何色か手に取ったウタさんを見てあぁそう言えば次のコンセプトは刺繍だって言ってたな、とそんな事を思い出すと同時に、わざわざ人の小指にソレを巻きつけて配色決めをするウタさんにグッと口を引き結んで顔を本へと俯けさせた。
「……ま……、ぎらわしいなぁ……もぅ
小指に結び付けられた糸に、ソレを見てすぐに『運命の赤い糸』を連想してしまった自分がひどく恥ずかしくて、そう小さく零し深々と溜息を吐き出していれば配色が決まったのかうん。とどこか満足そうなウタさんの声がして、伏せていた顔を上げる。
「ありがと、コレにするよ」
「……いぇ」
そう言って小指から青と白と緑の糸を抜き取ったウタさんに、ソッとそんな彼から視線を逸らせばそう言えば、と声を洩らしたウタさんがテーブルに置いていた赤い刺繍糸を手に取って私を振り返った。
「運命の赤い糸は一本だけじゃないんだって」
「え……?そうなんですか?」
「うん。その人が生きていく中で出会った人達と繋がったり切れたりを繰り返してるんだって」
まぁ眉唾ものだけど、と言いながら人の小指に何本もその赤い糸を結ぶウタさんに、一本だけ自分の小指にソレを結びつけたウタさんを見て、彼の小指へと視線を落とす。
タトゥーで彩られた指に、自分とウタさんを繋ぐその赤い糸を見ていれば結んでいたソレを一本一本切り始めたウタさん。
「まぁでも、僕は"運命の赤い糸″なんて信じてないけど」
「ぁっ……」
そう言って私と繋がっていたその"赤い糸″を切ってしまったウタさんに、そう思わず声を漏らせばクスクスと何処か楽しげに笑ったウタさんが紐の垂れ下がる私の手をギュッと握るものだからなんだよ、と批難の視線を向けてしまった。
「君と出会えたことが"運命″だなんて思いたくは無いかな。人間()喰種()が出会えたのは、偶然だし……君と一緒に居たいと思ったのは僕の意思だから」
そう言ってその方が素敵じゃない?なんてひどく楽しげに口元に弧を描いたウタさんに、小指から垂れ下がる何本もの赤い糸へと視線を落とす。
今こうしてウタさんと一緒に居るのもソレは私たちが自分で決めた事で、神様だとか運命だとかそんな安っぽい言葉で完結はできなくて……
人間()と"一緒に居たい″と言ってくれたウタさんに、楽しげに細められるその赤と黒の目を見つめフフッ、と笑ってその手をギュッと握り返した。
「はい、とっても素敵です!」


赤い糸
      お題サイト『TOY*』様より



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ