お話U

□玉藻T
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「あ、あのっ……!!玉藻先生っ!!」
呼ばれた名前に立ち止まり、後ろを振り返ればそこには小柄な看護婦が立っていた。
顔を俯かせ、もじもじとする彼女にあぁまたか…、と漏れそうになる溜息を飲み込み代わりになんですか?とそのつむじへと声をかける。
あの…、えっと…、と言葉を詰まらせるナースに、コレでこの女に声をかけられるのは何度目だっただろうか、とふとそんな事を思った。
休憩時間やちょっと手が空いた時間にこうして自分の元を訪れる彼女は、大抵言葉に詰まって要件を述べる前に他の看護婦にあしらわれることが多いのだが、今回はどうやらそのナース達の姿も無いらしい。
いつも何処から現れるのか、妖狐である自分でさえ感心してしまう彼女達の俊敏さに、再び漏れたその…と言う言葉で目の前の女へと視線を戻す。
声をかけ早2分。どうしてこうも女と言う生き物は面倒くさい生き物なんだ、言いたい事があるのならばはっきりと言えば良いものを……。
看護婦達から向けられる視線の中に含まれている彼女の視線に、毎日毎日飽きないものだ、と一向に話を先に進めようとしない彼女に要件はなんですか?と開きかけた口を閉じる。
意を決したように顔を上げた目の前の女に、羞恥と緊張で紅くなるその顔を見てあぁ『また』色事の話か、と今まで耐えていた溜息が口から洩れた。
この女で何人目だっただろう、とコノ顔に魅かれ想いを告げにやってくる看護婦や患者に、あぁ面倒臭い、と心の声が漏れそうになる。
人間の女に興味はない、と何度言ったら皆理解してくれるのだろう……。いっそのこと頭を入れ替えてしまおうか、とさえ思ってしまう。
ソレを言ったらきっと鵺野先生辺りが僻みか?!と怒るんだろうが
それはそれで面白うだ、と思いながらやっと口を開いた目の前の女に視線を戻す。
「わ、私……玉藻先生の事がずっと、気になってました……!!その、お、お…お友人からで構わないので、連絡、先を……」
教えてください、と言う言葉はモゴモゴと口の中で発せられ結局上手くは聞き取れなかった。
そう言ってまた顔を伏せた看護婦に、こういったパターンの『愛の告白』もあるものなんだな。と少し感心した。
大体が『好き』だの『愛してる』だの薄っぺらい言葉を述べるばかりの女達ばかりで、私が知りたいと願う『人間の愛』がいまいち伝わってこないのだ。
「すみませんが、職場内の人間と『そう言った』関係を築くつもりはありませんので」
いい勉強になった、とけれでもいつものようにそう言葉を返し目の前で顔を伏せる看護婦を見下ろせばビクリ、と肩を震わせた彼女が泣きそうな表情でこちらを見上げてきた。
あぁ、これはいつものパターンだ。
この後に続く言葉は『どうして?』か『なんで?』だろうか、と思っていれば消え入りそうな声でやっぱり、ダメですか…?と聞かれた。
何をどうしたら『やっぱり』に行きつくのかは分からないが、研究対象は鵺野先生とまぁ、こちらは半人前だが葉月いずなぐらいで十分だ。何の変哲もないただの人間には興味はない。
「そ、その……お、お付き合いしたいとか、大それたことは、いわ、言わないので………おと、お友達に………」
なって…、とまるで縋りつくように見上げてくる女に、もう一度断りの言葉を口にしようとして、ふと悪疑心が首を覗かせた。
今、目の前で顔を紅くさせる女に自分が妖怪であると言う事を教えたら、どんな反応をするだろう
恐怖にその顔を引きつらせる?それとも泣き叫んで助けを乞うだろうか?あぁ、驚きすぎて失神する、ということもありえるな。などと思いながらクツリと喉を震わせる。
一人にぐらい、正体を明かしても構わないだろう。そのあとで面倒事になりそうならば記憶を消せばいい、と一人納得して目の前の女へと視線を戻す。
「お気持ちは大変嬉しいのですが、実は私

人間ではないんですよ

それでも、友人になりたい、と?」
そう言って、ブワリ、といつものように銀糸の髪をはためかせ人化の術を解けば
妖狐の姿になった私を見上げた彼女が酷く呆けたようにパチクリと目を瞬かせた。
さぁ、その顔を恐怖に引きつらせろ。泣き叫べ
「あ、あの……それって、つまり……お友達になってくれるってことですか?!」
そう言って、何故か表情を輝かせた彼女に、今度は私が呆けてしまった。
演出も兼ねて刺又まで取りだしたというのに、この目の前の女はソレが見えていないのだろうか?
それよりも………何故、驚かない?
「あの……私、人間じゃないんですよ?驚かないんですか……?」

「え?だって玉藻先生が妖怪だってこと知ってましたから」

と………、何でもない事のようにとんでもない事を言ってのけた目の前の看護婦に呆然としていればれ、連絡先を…!!と言って携帯を取り出す始末
「知って、いた……?」
「え?あっ、はい!前に偶然そ、そのお姿で妖怪退治をしている玉藻先生を見かけて、そ、その………ひ、一目惚れだったんです……!!」
そう言ってリンゴに負けず劣らず顔を真っ赤にさせた目の前の人間に、人間は本当に変わった生き物なんだな。と再認識した。


妖怪だとカミングアウトしたら、もっと変な事をカミングアウトされた
     お題サイト『確かに恋だった』様より『カミングアウト』


『取りあえず……連絡先を交換しましょうか……』
『―――っ!!!あ、ありがとうございますっ!!!』


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