お話U

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買い出し途中にザァザァと降ってきた雨に買った物が濡れないように両腕で抱え込みながら軒下へ駆けこむ。
アレだけ晴天だった空から急に降ってきた雨に、流石はグランドライン、と呟いて濡れた髪に頭を振って水滴を落としていればタッタッタ!とこちらに誰かが駆けてくるのが見えた。
街の中心から外れたこの場所で誰かと会うなんて珍しいな、と思いつつそのシルエットを見やればどうやら知人のようだった。
バシャリ!と水たまりを踏みつけて同じ軒下へと入ってきたその人物に、雨に濡れてペシャリと力なく垂れさがるそのトレードマークの髪の毛を見やった私はアー…、と声を漏らして顔を上げたマルコ隊長にビクリと肩を震わせた。
「なんだぃ、お前ぇさんも降られたくちかぃ?」
「あ、はいっ!買い出しの帰りに急に降ってきて」
そうかけられた声に、あぁ、私の顔を覚えていてくれたんだ、と嬉しく思いながら言葉を返せばそりゃぁ災難だったねぃ、と髪の毛をかき上げたマルコ隊長がどんよりとした空を仰ぎ見た。
「あー、こりゃ暫くは止みそうにないねぃ」
そう言って十分に水を含んだ上着を脱いだマルコ隊長に、惜しげもなくさらけ出されたその体を見て慌てて視線を地面へと落とせばギュッ!!という音と共にボタボタボタ、と水分が地面へと落ちていった。
捻じ切らん勢いで上着を絞るマルコ隊長に、そんなに絞ったら皺になっちゃう…とか思っていればバンッ!!とソレを広げた彼が不意に私へと視線を向けた。
「その格好じゃ風邪引いちまうねぃ、コレでも着とけよぃ」
そう言って差し出された上着に、慌てて大丈夫ですよ!!と首を降れば何故か溜息を吐きだしたマルコ隊長に顎で服を指された。
それに何だろう?と自分の服へと視線を落とせば濡れて透けた服の下からクッキリと下着の色が浮かんでいた。
「っ………!!!?」
「荷物は持っててやるから着替えろよぃ」
ソレにギャァ!!と叫びたくなるのを必死で堪え、抱えた荷物で体を隠していればヒョイ、とソレを取り上げたマルコ隊長に代わりに、と彼の上着を押し付けられた。
「すっ、すいませんっ……!!」
買い物袋を手に私から背を向けてくれたマルコ隊長に、着ていたカッターシャツを脱ぐと彼の上着へと袖を通す。
かなりブカブカなソレにちょっとドキドキしつつジッパーを上まで上げればこちらを振り返ったマルコ隊長がどこか可笑しげに喉を震わせた。
「デカいねぇ」
「そ、そうですね……」
そう言って目尻に皺を寄せ楽しげに笑うマルコ隊長に、ありがとうございます、と荷物を受け取ろうとすればやんわりと断られてしまった。
私の腕では持ち切れなかった荷物もマルコ隊長にかかれば片腕で済んでしまうソレにすいません、と謝れば気にすんな、と笑った彼。
隊も違うし雑用と隊長とではそうそう言葉を交わす機会もないこの人に、いつも気難しそうな顔をしている彼が時折見せるこの優しい笑顔にドキリとしてしまう。
何を話したら良いのか分からず結局地面へと落としてしまった視線に、ポタ、ポタ、と髪の毛から落ちる水滴をなんとはなしに見ていれば不意に伸びてきた手に前髪を持ち上げられた。
「マッ、マルコ隊長……?!」
「早ぇとこ船に戻らねぇとホントに風邪引いちまうねぃ」
そう言ってグシャグシャグシャ!とかき混ぜられた髪の毛にうぁ?!と声を漏らせばまた笑った彼にゆるり、と頭を撫でられた。
「グランドラインは何時天候が変わるか分からねぇからねぃ」
気をつけねぇと、と小さく笑みを浮かべ髪の毛を梳くマルコ隊長に、熱を持った顔を見られぬよう顔を俯けさせればオ、と声を漏らしたマルコ隊長が空を仰いだ。
「そろそろ止むねぃ」
そう言って弱まってきた雨を見やったマルコ隊長に、同じように薄れてきた雨雲を見上げ、チラッとマルコ隊長を盗み見る。
彼の髪の毛も十分に水を含んでいて、そこから落ちる水滴が彼の首筋を伝うのを見てまるで絵画のようだな、と思っていればふと空から私へと視線を落としたマルコ隊長がその口元に柔和な笑みを浮かべた。
「思ったよりは早く止んで良かったねぃ」
「そう、ですね……」
そう言ってまた空へと視線を戻してしまった隊長に、あと数分もしないうちに止むであろう空を見上げてもう少しだけこうしていたかったな、とひっそりと溜息を吐きだした。



8.雨よ止まないで
     お題サイト『確かに恋だった』様


「アレ?マルコお前確か今日は街行かねぇとか言ってなかったか?」
なんでずぶ濡れなんだよ?と雨の上がった街から帰ってきたマルコを見やったサッチは、服と言わず全身ずぶ濡れなマルコを見やるとひどく不思議そうに首を傾げた。
「ちぃと用を思い出したんだよぃ……」
ソレにそんなサッチを一瞥したマルコはどこか気恥ずかしそうにそう言葉を返すとサッチから視線を逸らし、遅れて船へと戻ってきた彼女を見やると、ふとその口元に弧をかいたのだった。


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