お話U

□どうしよう好きみたい
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一日の仕事が終わってさぁ帰ろうかな、と病院の中庭に出れば大きな老木の側に玉藻先生が立っていた。
ジッとその木を見上げる玉藻先生は何やら独り言を言っているみたいで『場所を移せ』だとか『患者の迷惑だ』なんて言葉が聞こえてきた。
普段から気難しそうな顔をしていて怖い先生だな、と思っていたけど………今の独り言を聞いて『怖い先生』から『不気味な先生』にランクが上がった。
こういう人には極力関わらない方が良いな、とそそくさと玉藻先生の側を横切ろうとすればふと私へと視線を落とした玉藻先生に声をかけられてしまった。
それにビクリ、と足を止め玉藻先生を振り返れば今帰りですか?なんていつものように微笑を浮かべた玉藻先生。
それに小さく頷けば暗くならないうちに帰った方が良いですよ、なんて声をかけられた。
だからありがとうございます、と口早に返してそそくさとその場を後にする。
普段だったらなんて優しい先生なんだ、って思ってたかもしれないけど、さっきの独り言を聞いてしまうとどうにもそうは思えなくなるから人間、知らないこともあった方が良いんだな、って思ってしまった。

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