お話U

□サッチT
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「ただぁいまぁ……」
「お!おっかえりー♪」
疲れた体を引きずって家への扉を開ければ陽気なリーゼントがヒョコリとリビングから顔を覗かせた。
ニコニコと笑みを浮かべるサッチを見て、一旦扉を閉める。
表札の名前を確認してみるけれど名前は私のものだ。
あれ?と首をかしげれば中から扉が開かれた。
「ちょっと閉めることねぇんでない?」
サッちゃん傷つく、と肩を落としたサッチは呆ける私の手を引っ張ると部屋の中へと上がる。
持っていたかれたカバンにリビングを見やれば豪華な夕飯がテーブルに並べられていた。
「疲れただろー、メシにしようぜー」
「え、ちょ……何でいるの?」
そう言って当たり前のようにテーブルに腰かけたサッチを見てストップの声をかければキョトリと瞬きをしたサッチは苦笑を洩らした。
「やっぱ憶えてねぇよ。ホラ、前お前ン家にマルコと飲みに来ただろ?
あん時俺にって合いカギくれたんだよ」
お前、とポケットから犬のキーホルダーが付いたカギを取りだしたサッチにそういえば知らないうちに合いカギ消えてたな、と思いだし我ながら酒癖が悪いなぁ、としみじみ思ってしまった。
なにはともあれ無事贈り主の手に届いたようだからまぁ良いか。
そう思いながらサッチの正面へと座ればワイングラスを差し出された。
「良いのが手に入ったんだよ」
飲もうぜ、と笑ったサッチにお礼を言ってワイングラスを受け取ればワインボトルを手に取ったサッチがどこか楽しそうにボトルを傾げた。
注がれるワインから、テーブルに並べられたレストラン顔負けの夕食へと視線を落とす。
手の込んだ料理に感嘆の声を漏らしていれば乾杯!とワイングラスを掲げたサッチ
それに手にしていたワイングラスと軽くぶつければキンとグラスが良い音を立てた。
どこか味わうようにワインを一口口に含んだサッチに、流石腐っても一流シェフだなぁと失礼なことを思ってしまう。
ウン、とどこか納得したように頷いたサッチに同じようにワインを一口飲んでみるけれど味の良し悪しなんて一般人の私には分からなかった。
小さく首を傾げた私にクツリと笑ったサッチはフォークとナイフを手に取ると食おうぜ、と笑みを浮かべた。
それに頷いて目の前の料理に手を伸ばす。
「………美味しいっ!」
綺麗に盛り付けられていたローストビーフをフォークですくって食べればお肉と爽やかな酸味が口に広がった。
そう言って声を弾ませた私にサッチは嬉しそうに笑みを浮かべると同じようにテーブルに並べられた料理へと手を伸ばした。
一口食べてまぁまぁか、と零したサッチに苦笑を洩らす。
コイツは自分で作ったものを絶対に美味しいとは言わないんだよなぁ……。
何度かサッチの作った料理を食べたけれどどれもこれも文句なく美味しかったのに。
「サッチは自分に妥協しないよねー……」
「当たり前だろー!客の喜ぶ顔を見て初めて今日の料理は合格だ、って思うんだよ」
そう言って笑ったサッチはマナーなんて微塵も感じさせない食べっぷりで料理を口へと頬張った。
「もういっそのこと私専属のシェフになりなよ」
モクモクと料理を咀嚼するサッチに、彼をチラッと見やりポツリとそう零せば顔を上げたサッチがキョトリと目を丸くさせた。
呆けたように向けられる視線に耐えれず、料理へと視線を落とせばハハッ、と笑ったサッチが再び料理へと手を伸ばした。
「じゃーお前のための夕飯は俺が作るからお前は俺のために朝飯作ってくれる?
んで朝はおやすみのチューで夜は行ってらっしゃいのチューしてね♪」
そうどこか楽しそうに言ったサッチに自分で言っといてアレだけど前言撤回したくなる。
コイツはホントに調子が良いな
それに適当にハイハイ、と返してワインを飲めばどこか楽しそうに笑ったサッチはグラスを煽ると腰を上げた。
「それじゃぁ俺行くわ」
仕込みがまだ途中なんだよなー、と笑ったサッチに行ってらっしゃい、と返せばン、と顔を近づけてきたサッチ。
それに眉を顰めればチューは?とどこか楽しそうに声を弾ませた彼にペシリとその頬を叩く。
「ちょーしに乗らない」
「ですよねー……。んじゃま、ゆっくり休めよー」
そう呆れたように言葉を返せばクツリと笑ったサッチにグシャリと頭を撫でられた。
コートを手に玄関へと向かうサッチの後ろ姿を見やり小さく溜息を吐きだしイスから立ち上がる。
「サッチ」
「ンー、どうし……」

 −−−チュ

「イッテラッシャイ」
「………ぉ、おう」
私を見るサッチの表情はとても間抜けで思わず笑ってしまいそうになった。
そう言って手を振れば呆けたように手を振り返したサッチはそのまま家を出ていった。
閉まる扉から、一瞬だけ見えたサッチの赤い顔を思い出してふふ、と笑みを零した私は片付けをするべくリビングへと戻った。


お帰り!お疲れさん!


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