お話U

□マルコT
1ページ/1ページ

夜も良いとこ10時過ぎ
疲れた体を引きずるように家に帰った私はポケットから鍵を取りだすと扉を開けた。
当然のことながら室内は真っ暗で冬の寒い空気が部屋中に充満していた。
それに小さく溜息を吐きだしてカバンを投げ捨てる様にソファーへと放る。
お腹は五月蠅いくらいに主張しているのに疲れ切った体はなにもする気が起きなくて、仕方なくケトルにお湯を沸かしてインスタントのラーメンを取りだした。
お湯が沸くまでの間に部屋着に着替えて暖房のスイッチを入れれば無機質な機械音と共に温風が噴き出された。
その温かな空気に小さく息を吐きだしてどっこいしょ、とジジ臭い声とともにソファーへと座り込む。
何となくテレビをつけてボーっと画面を眺めていれば湯気を噴き出したケトル
それに立ちあがった私はカップ麺へとお湯を注ぎこんで再びテレビへと視線を向けた。
今の経済がどうだとか税金の値上げがどうだとかを討論している政治家に、そんなことよりもっと市民のためになること話せよ、と思いつつ出来上がったラーメンを咀嚼する。
美味しくもなく不味くもないそれを食べ、もうお風呂に入るのも面倒くさいから明日起きたらで良いか、と思いながらテレビを消せば再び部屋に沈黙が訪れた。
やりたいことは山ほどあるのにもう寝なければ明日の仕事に支障が出てしまうから仕方なしにベッドルームへと向かえばガチャリ、と扉の開く音がした。
それにベッドルームの暖房をつけていた私はカギをかけ忘れていたことを思い出す。
こんな遅い時間に来訪してくる人間なんて空き巣か泥棒かはたまた時間に無頓着な我が恋人ぐらいだろう。
そんなことを思いつつ玄関を見やればスーツ姿の我が恋人がどこか疲れた顔をしてそこに立っていた。
「あぁ……起きてたのかぃ」
「お疲れ、マルコ」
残業?と顔を上げ私を見やったマルコにそう聞けばひどくしかめっ面を浮かべたマルコは大きな溜息を吐きだした。
「新人が得意先に違う資料を持っていっちまってねぃ……」
それの尻拭いしてたんだよぃ、と疲れたように吐きだしたマルコは手にしていたカバンをソファーの横へ置くとネクタイを緩めた。
ボスリとソファーに倒れ込んだマルコを見て時計を見やればもう日付を跨いでいた。
「まさかまたサービス残業してきたの……?」
「こんなことでいちいち残業代つけてたらおっつかねぇよぃ」
そう言って眉を顰めた私にどこか苛立ったように頭をかいたマルコ
そんな彼を見てついつい溜息が洩れてしまう。
ホントこの人は仕事の鬼って言うか責任感が人一倍強いっていうか……
たまには他の連中に頼れば良いのに何でもかんでも自分一人で何とかしようとするから余計大変なんじゃないか
「ご飯は?」
「あー……食べる暇もなかったよぃ」
「まさかお昼返上でやってたっていうんじゃ……」
そう言って苦笑を洩らしたマルコにそう言えばあぁ、なんて頷くものだから思わずバカ!と声が漏れそうになった。
それでも疲れきっているマルコにそんなこと言えるわけもなく、代わりに溜息を吐きだした私は冷蔵庫へと向かった。
「何か適当でも良いからお腹に入れとかないと、そのうちぶっ倒れるよ」
お茶漬けで良い?と言った私に悪いねぃ、と言葉を返したマルコはどこか困ったように笑みを浮かべていた。
そんな彼の前にビールを置けば嬉しそうに笑みを浮かべたマルコは早速ソレを開けるとビールを口へと流し込んだ。
プハ、と小さく息を吐いたマルコに苦笑を漏らしてその南国果実さながらな頭を撫でまわす。
「目の下、クマが出来てるよ」
「あー……、昨日も徹夜だったからねぃ」
すぐ作るから、と小さく頬をかいたマルコの頭をポン、と叩いてキッチンへと向かえばありがとよぃ、と言った彼はそのままソファーに寝転びテレビをつけた。
深夜番組がやっているんだろう、テレビから聞こえてくる声をBGMにお湯を沸かしてご飯を温める。
適当に海苔や梅を刻んでお茶をかけ、これまたインスタントのお味噌汁を手にリビングに戻ればそこには寝息を立てるマルコの姿があった。
規則正しく上下する胸元に、相当疲れていたんだろうな、と苦笑を洩らす。
そっと撫でた頭にピクリともしないマルコを見てソファーの背にかけてあった毛布を彼の体にかけてあげる。
「お疲れ、マルコ。ゆっくり休んでね」
狭いソファーにそれでもその大きな体を収めて眠るマルコを見やりその頬に触れるだけのキスを落とした。


さぁ、ゆっくり休もうか



「悪かったねぃ、結局あのまま寝ちまったみたいで」
朝起きて一緒に朝食を食べていれば顔を上げたマルコが申し訳なさそうにそう言った。
「良いのよ、それよりちゃんと休めた?やっぱりベッドで寝た方が良かったんじゃない?」
そんなマルコを見て苦笑を漏らせばいや、と首を振ったマルコはカバンを手に立ちあがった。
「十分寝れたよぃ。久しぶりにお前さんのメシも食えたし、当分は頑張れるよぃ」
そう言ってありがとよぃ、と笑ったマルコはそのまま玄関へと向かう。
そんなマルコの背を見やり、キッチンに置きっぱなしだったソレを手に取り慌ててマルコのあとを追いかけた。
「マルコ!コレ」
持って行って、と包みを渡した私に、包みへと視線を落としたマルコはひどく不思議そうに首を傾げた。
「お弁当、作ったから。ちゃんとお昼は食べなさい。いつも買い弁ばかりだからご飯が疎かになるの!」
そう言って小さく溜息を吐きだせばバツが悪そうに頭をかいたマルコが小さく笑みを浮かべた。
「ありがとよぃ、それじゃぁ行ってくるからねぃ」
「はい、行ってらっしゃい!」
そう言って部屋を出ていったマルコの背を見送って私も家を出る準備を始めた。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ