お話U

□U
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「例えばさぁ……」
「あ……?」
ベンチに二人座って遅い昼食を食べていた私達。
隣でアンパンを食べる千春を見やりポツリと言葉を漏らした私に千春は口を半分開けた状態で私を見やった。
「この世の中にアンパ●マンがいるとしてさぁ」
「………アァ」
唐突に振られた話に、ひどく呆れたような視線を私に向けた千春。
どこか冷めた目で見つめる千春に、千春が手に持っていたアンパンへと視線を向けた私は小さく眉をひそめた。
ぎっしりとアンが詰まったそれを手でちぎりながら再び咀嚼を始めた千春は手についたアンをペロリと舐め取った。
何をしても無駄にエロいな、こいつ……。
「で、そのアンパ●マンがナンだよ……」
話題を振ったのに途中で言葉を止めた私に千春は手にしていたアンパンから私へと視線を向けた。
って言うかね……、昼食が菓子パンだけってある意味凄いと思うよ、私は。
あぁ、うん。と続きを促した千春に私は手にしていたハンバーガーを一口齧った。
「私がお腹が減って減ってもう死んじゃう!!って状況でソイツが現れたとして
 『ボクの顔をお食べよ!』ってつぶアンぎっしりの顔押し付けられたら
 私生きるの放棄すると思うんだよねぇ……」
そう言って再び千春の手にあるアンパンを見やった私に千春はあぁ…、と声を漏らすとつぶアンを咀嚼した。
ぎっしりとつぶアンが詰まったそれを美味しそうに食べる千春に自然と眉間に皺が寄った。
「お前……こしあん派だったな」
そういやぁ、とどうでも良さそうに言葉を返してくれた千春にウン、と頷いてハンバーガーに齧りつく。
「つぶアンたっぷりのアンパン押し付けられるぐらいなら死んだほうがマシな気がするんだよねぇ」
いつだったか某アンパンヒーローのパンの中身がつぶアンだと知った時は軽くショックを受けた。
例えどんなにジャ●おじさんが美味しく作ってくれたとして私はそれを受け入れないだろう。
そう言った私に千春は呆れたように溜息を吐きだすとアンパンのアンだけを舌ですくい取ると私を見やった。
伸びてきた手に怪訝そうに千春を見ていたらガッシリと後頭部をホールドされた。
「ちょ、千春……?!」
近づいてきた顔に後ろに引こうとしたが千春に頭を掴まれてて逃げようにも逃げられない。
手で近づく千春の顔を阻止しようとしたら腕を掴まれてしまった。
「まっ……ングッ…ち、は……ンッ…」
最後の抵抗とばかりに閉じた口も千春の口でこじ開けられた。
無理矢理口の中へとねじ込まれたアンを飲み込んで離れていった千春を睨みつける。
「な、にすんの……っ!!」
口の中いっぱいに広がったつぶアンの食感に抗議の声を上げた私をクツリと笑って見下ろした千春。
「こうすりゃテメェも餓死しねぇダロ……?」
そう言って再びアンパンを咀嚼した千春に手にしていたハンバーガーに齧りついた。
甘ったるいアンにハンバーガーは合わないな。
ソースとアンの何とも言えない不味さが口の中に広がって眉をひそめた。
もう一口齧って既に食べ終わったのか煙草を取り出した千春を見やる。
クイ、と服の袖を引いた私に煙草をくわえた千春が怪訝そうに私を見やった。
「オイ……」
くわえられていた煙草を抜き取った私に不機嫌そうに眉をひそめた千春は顔を近づけた私にクツリと笑みを零した。
 −−−グイ
「え…?」
引かれた腕に頭を固定された私は再びキスを落とした千春に口の中に入っていた肉の欠片をかすめ取られた。
「……マズ」
荒々しく口元を拭った千春は口に入れたソレを飲み込んでひどく不快そうに眉をひそめた。
「食べ……れるじゃん……」
てっきり嫌がって逃げると思っていた私は再び口の中に広がったアンの甘みに千春から顔をそらした。
そう言った私に千春は煙草を奪い返すと火をつけてクツリと笑みを浮かべた。
「お前がそうやって食べさせてくれんなら、肉でも何でも食うぜ……?」
そう言って煙草をくゆらせた千春に私は顔を真っ赤に染めると残りのハンバーガーを飲み込んだ。



きっと君には一生敵わない


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