彼と私の航海日誌

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「マルコさん、泳げないんですか……?」

さっき言ったマルコさんの言葉を思い出し不思議に思いつつそんなマルコさんを見上げれば、着ていたシャツを脱いだマルコさんはそう言った私を見やると手にしていたシャツを私へと差し出した。
「これに着替えると良い」
「え?!大丈夫ですよ!!すぐ乾きますから!!」
濡れた私の服を見やりそう言ったマルコさんに、差し出された服を見て慌てて首を振る。
助けてもらったばかりか服まで借りてしまったら本当に申し訳なくなってくる………。
「女は体を冷やしちゃいけねぇよぃ」
そう言って服を押し付けたマルコさんは私の返事も待たずに私に背を向けてしまう。
それに断るに断れなくなりすいません、とそんなマルコさんの背に声をかけ濡れたシャツを脱ぎ渡されたそれに袖を通した。
マルコさんがこちらへ来てすぐ買いに行ったその服は、もちろん男物でマルコさんサイズだ。
ブカブカのそれに袖をちょっとまくりあげてマルコさんを呼ぶ。
「俺はねぃ、カナヅチなんだよぃ」
きっとさっきの質問に対する答えなんだろう、そう言って私を振り返ったマルコさんは私の手にしていた服を受け取ると自転車につるしてくれた。
「帰るころには乾いてるだろぃ」
そう言って再び砂浜を歩きだしたマルコさんのあとを追いかけて同じように砂浜を歩き出す。
「海賊なのに、カナヅチなんですか……?」
「あぁ、海賊で、カナヅチだ」
マルコさんの言葉に不思議そうにそう言葉を返せば、そう言った私にマルコさんはどこか遠くを見やるとそう言って小さく頷いた。
それに珍しいですねぇ、なんて声を漏らした私に足を止めたマルコさんはそんな私を振り返るとただ静かにそんな私を見下ろした。
口を閉じて私を見下ろすマルコさんにどうしたんだろう?と小首を傾げそんなマルコさんを見上げる。
「少し……、人気のない所に行こうかねぃ」
目立つだろぃ、と胸に刻まれた刺青に触れたマルコさんは再び私に背を向けて歩き出す。
それに誇りだと言って嬉しそうにその刺青の話をしてくれたマルコさんを思い出す。
大切な『オヤジ』と同じ信念を持って生きている証だよぃ。と笑って話してくれたのは少し前のこと。
けれど私はそれをあまり人目に見せないようにしてほしい、とそんなマルコさんへと言ってしまったのだ。
こちらで刺青と言うのはあまり良いイメージはないから………。
そう言った私に対して嫌な顔せず頷いてくれたマルコさんだったけれど、誇りを隠してしまうと言うのはやはり良い気分ではないんだろうな……。
「俺達の世界じゃ珍しいことでもねぇよぃ。海賊が、カナヅチってのは」
そんなマルコさんの背中を見つめていればそう言ったマルコさんが私を振り返った。
「俺が乗ってる船のオヤジもカナヅチだしねぃ」
そう言ってクツリと笑ったマルコさんは岩場に腰を下ろすと私を手招きした。
それにマルコさんの隣に腰かければ、私を一瞥したマルコさんは海へと視線を向けた。
「オヤジだけじゃねぇ、前に話したエースやジョズってヤツもカナヅチだよぃ」
「えっ?!それって船が転覆したら一大事なんじゃ?!」
そう驚きに声を上げた私にマルコさんは楽しげにクツクツと笑うと私へと視線を向けた。
「そう簡単に転覆するようなボロイ船じゃねぇよぃ。なんたってオヤジの船だからねぃ」
そうどこか誇らしげにそう言ったマルコさんに前に話してもらったその『オヤジ』さんを思い出す。
体も器もすごくすごく大きいらしい。
そんなオヤジさんの率いる船だ、きっと本当に転覆なんてしないのだろう。
凄いですね、と笑った私にマルコさんも嬉しそうに笑みを浮かべるとあぁ、と頷いた。

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