お話T

□U
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カランコロン、と下駄を鳴らしながら人で溢れる祭り会場を二人で歩く
右手は玉藻さん、左手に綿あめを持ちながら人波を避けつつ花火が見える穴場まで向かっていればクィ、と玉藻さんに手を引かれた。
「ほら、あまり人の多い所を歩かない」
危ないですよ、と多分下駄を履いている足元を気にしてくれているんだろうそう言った玉藻さんにはぁい!と返事を返して少しだけ人の少ない通りを歩く。
カラコロと鳴る下駄に、珍しくも浴衣などと言うものを着てくれた玉藻さんに、異様に様になるその姿を見てふふっ、と笑えばなんですか?なんて不思議そうに私を見下ろした玉藻さん。
「いや、浴衣姿も男前だなぁって」
「あぁ……、150年ほど前まではそれが主流でしたからね」
私の恋人は!とちょっとおどけてみれば苦笑を洩らした玉藻さんが久しぶりに着ましたよ、と言って浴衣の帯にソッと手を触れた。
そういえば見た目は同年代だけどこの人400歳だったなぁ、とか思いつつそれでも似合ってますよ、と笑えば私を見た玉藻さんも貴女も素敵ですよ、なんて返してくれた。
その場の雰囲気も相まってか普段の数倍イケメン度が増している玉藻さんに、そう言った玉藻さんの言葉がすごくくすぐったくて柔和な笑みを浮かべる玉藻さんから左手に持っていた綿あめへと視線を落す。
「そういえば、先程もクレープや焼きそばを食べていたというのによく入りますね」
貴女の胃は無尽蔵ですか…、と若干呆れたように向けられた視線にパクリ、と綿あめに齧りついてそんな玉藻さんを見上げれば口元についてますよ、なんて苦笑を浮かべられた。
「この後バナナチョコも食べますよー」
夏祭りのテンション舐めちゃいけません!と口元についた綿あめの残骸を舐めながらそう返せば美味しいですか?とかけられる声。
それに祭りの定番ですから!とその砂糖の塊にもう一度齧りつけば不意に伸びてきた玉藻さんの手に、持っていた綿あめを掠め取られてしまった。
「一口だけで、す……っ?!!!」
「あぁ、なるほど………甘い」
食べてみたくなったのかな?とそんな玉藻さんにそう言おうとした私は、突然目の前に現れた玉藻さんのドアップと唇に触れた柔らかい感触にビタリ、とその場に静止した。
ペロリ、と舐められた唇に、私を見下ろした玉藻さんはすごく艶やかな笑みを浮かべていてあまりにも突然すぎるソレに惚けたように玉藻さんを見ていればハイ、と返された綿あめ。
「ほら、急がないと花火が始まってしまいますよ」
「う、ん……」
そう言って引かれた手に、前を歩く玉藻さんの背を呆けたように見ていれば私を横目に見やった玉藻さんがゆるり、とひどく妖艶な笑みを口元に浮かべたものだから慌てて手元の綿菓子へと視線を落し誤魔化す様にソレへと齧り付く。
「甘い……」
ホロホロと口の中で溶けていったそれはやっぱり甘くて、そう小さく声を漏らした私の耳に楽しげな玉藻さんの笑い声が聞こえた。


3.ふわふわあまい
    『確かに恋だった』様より【きみと夏まつり5題】


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