お話T

□U
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人でごった返すヘリペリデスファイナンスの屋上に、うわ…と思わず漏れそうになった声を慌てて呑みこむ。
夏になると毎年ヘリペリデスが開催する夏祭りに、今まではヘェ、そんなことやってるんだー。で終わり一度も参加しなかったお祭りに何故今年になって参加しているかと言うと……
「凄いね!とてもたくさんお店が出ているよ!!『タコヤキ』とは何だろう?!あっちの『ヤキソバ』も気になるね!あぁ、こんなに沢山お店があるとどれから食べようか迷ってしまうね!すごく迷うよ!!」
そう、声を弾ませ子供のように顔を輝かせるキースさんに誘われたからに他ならない……
仕事終わり、珍しく取材も何も入っていなかった彼が突然ラボにやってきた時点で何かあるとは思っていたけど、まさか夏祭りに行かないかい?なんて誘われるとは思わなかった……。
しかもご丁寧にも折紙サイクロンから日本の伝統服である『浴衣』まで借りてきたらしい
ソコで嫌だなんて断れるわけも無く、またこんなウキウキとしたキースさん見てそんな事言ったら良心が痛むから、こうして今私は人生初の夏祭りへと来ているわけだ。
「すごい、人ですね……」
「毎年とてもたくさんの人が来るそうだよ!折紙君に話を聞いてずっと来たいと思っていたんだ!」
君と来れてとても嬉しいよ!と声を弾ませたキースさんに、その会場を埋め尽くす人の数に早くも帰りたくなっていた私はあぁ、ハイ…。としか言葉が返せなかった。
でもこんな楽しそうなキースさんに帰りたい、とも言えず歩きにくい下駄に小さく溜息を吐きだせばそんな私の顔を覗き込んだキースさんが大丈夫かい?と声をかけてくれた。
「君は、人混みは苦手だからね。もし嫌なのであれば無理はしなくて良いんだよ?」
帰るかい?とかけられた声にあぁ、顔に出てしまっていたか、と心配げに顔を覗き込むキースさんに申し訳なくなりいいえ、と首を振る。
「私も、キースさんとこうやってデートが出来るのは、すごく嬉しいですから」
そう言って大丈夫ですよ、と笑えばそんな私を見たキースさんがパチリ、と目を瞬かせるとパッと表情を明るくさせてくれた。
「フフフッ!じゃぁ今日はお祭りを目一杯楽しもうか!折紙君は射的や輪投げがおススメだと言っていたよ!」
「じゃぁまずはそのおススメから周りましょうか」
そう言って顔を綻ばせたキースさんに屋台が立ち並ぶ通りを見やり何処も凄い人ですねぇ、と声を漏らす。
忙しい彼と久しぶりにデートが出来るのは確かに嬉しい、嬉しいんだけど………やっぱこの人混みは嫌だな……、なんて思っていれば同じように屋台を見ていたキースさんにあのね、と声をかけられた。
「なんですか?」
「そ、その……ま、迷子になってしまうと大変だから、てっ……手を、繋がないかい……?」
そう言って差し出された手に、キースさんの手を見て、そんな彼を見上げれば顔を真っ赤にしたキースさんがジッと私を見下ろしていた。
本当に真っ直ぐで分かりやすい人だな、なんて思いながらもう一度差し出される手に視線を落しふふ、と笑みを零す。
「ありがとうございます」
そう言ってその大きな手に、自分の手を重ねればまたその顔に満面の笑みを浮かべたキースさんがひどく嬉しそうに私の手を引いて屋台へと歩き出した。
あぁ、こうやって彼と一緒ならば人混みだろうとなんだろうと、きっと楽しいんだろうな。



2.はぐれない方法
     『確かに恋だった』様より【きみと夏まつり5題】

でも結局その後テンション上げ過ぎて夢主の手を離してしまい迷子になってしまうキースさんとか(笑)


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