お話T

□U
1ページ/1ページ

朝学校に来たら知らない男子が私の隣の席に堂々と座っていた。
つか、恐れ多いなそこあの木手永四郎の席だぞ……?
まぶぅやまぶぅやとか思いながら鞄を下ろすとその男子が私に振り向いた。
「うきみそーち」
「……あぃっ?!木手?!」
聞きなれたその声はまさしく木手のもの。
あからさまに驚く私に木手は不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「うきみそぉち……。あぃ?がんちょぅは?」
「不注意でね、割ってしまったんですよ」
「あー……、うぬちぶる(頭)は……?」
「目が見えないのにセットなんて出来ないでしょう」
明らかに別人だろ。と言いたくなるくらいの目の前の木手。
珍しい。木手でもそういうことあるんだな。
大変だねと返してやっと席につく。
チラリと木手を盗み見るけど、常時眉間に凄い皺。
普段より恐さが5割増しぐらい。
皆興味しんしんなのに恐くて近寄ってこないし……。
私の視線に気がついた木手が何です、とこちらを見る、というか…睨まれた……。
「あー……機嫌、悪い……?」
「何故です?」
「いや……眉間に皺が……」
正直言って隣にいるのが恐いくらい。
そう言った私に木手はあぁ、と声を漏らすと眉間を押さえる。
「どうもね、知らず知らず眉間に皺が寄るみたいだね」
全く見えないんだよ。そう言って苦笑する木手に初めて木手の目がとてつもなく悪いんだと知った。
「視力いくつ……?」
「裸眼で0.2ですね」
0.2って言われても実際どのくらいかなんてわかんないんだけどね。
へぇ、と返すと急に木手の顔が近づいた。
吃驚して引こうとしたら頭を掴まれる。
近い、近い、近いっ。ちょ、顔の距離10cmぐらいしかないですよ?!
「な、な、なにっ?!」
「この距離でやっと見えますね」
そう言ってすぐに離れた木手に私の心臓はバクバクだった。
離れる瞬間ふっと不適に笑った木手にときめいたのは内緒だ。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ