お話T

□木手T
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委員会が終って教室に戻ってみるとやっぱり皆教室にはいなくて溜息混じりに自分の机に向かう。

ふと降ろしていた視線を上げて再び教室の奥を見る。

窓際の一番前の席に誰かが伏せっていた。
どうせ帰宅部かなんかだろうと思いながら近づいて見ると、そこに寝ていたのはなんとあの木手永四郎だった。


吃驚したのと同時に滅多に見れない木手の寝顔をまじまじと眺める。

黙っていれば本当に良い男なのに、勿体無い……。

女子にも男子にも、そして先生にも臆することなく自分の意見を言う木手はある意味皆から注目されている。
そこまで悪評があるわけじゃないけれど、好評というわけでもない。

まぁ、女子からは絶大な人気らしいが。

わからないでもないんだけどな……。

現に私もこいつのことは好きだったりする。
もう一度寝息を立てている木手の顔を覗き込む。

「ちびらぁさんさぁ」

呟いて普段は絶対に触らせてはくれないであろう頭を撫でる。

ワックスでゴワゴワだ……。

よくもまぁ毎日ここまでセットできるものだ。
感心しつつ通路を挟んで隣の椅子に腰掛ける。

まぁ、見ていて減るものじゃないから今のうちにたっぷりとこの寝顔を拝んでおこう。


暫く眺めていると『ん……』と声を漏らして木手が身じろいだ。
起きたかな、と思ったのに木手はただ自分の腕に顔を伏せただけだった。

こりゃ本格的に爆睡してるなぁ……。

「部活、そんなに大変なのか……」

そう言えば朝は早いし放課後はかなり遅くまでやってるみたいだし……。
もう一度立ち上がってそっと木手の頭を撫でると予告もなしに木手が頭を上げた。

「ヒッ……」

吃驚して手をサッと下ろし木手から数歩離れる。
木手は少し辺りを見回した後、隣に立っていた私を見上げた。

「ぬーが、うんじゅうやいびーんやぁ……。」

少しだけ目を細めて言った木手は机に置いていた眼鏡をかけると再び私を見上げた。
きっとまだ頭が働いてないんだろう、珍しく木手がうちなぁぐちを使った。

「あー……結構寝てたけど、大丈夫?」

ほら、部活とか、と言うと木手は立てかけてあった時計に視線を移し少し驚いたように立ち上がった。
そして鞄とテニスバッグを手に取ると慌てた様子でこちらに振り返る。

「起こしてくれてありがとう、俺は行きますから。ゆくいみそーれ」

ポンッと軽く頭を叩いてから急ぎ足で教室を出て行く木手の背を見送る。
撫でられた頭に手を置くと思い出したように頬が火照った。

「木手でも、寝ちゃうこととかあるんだ……」

なんだか、少しだけ親近感が湧いてもっと彼のことを好きになった。


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